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目次
  1. はじめに
  2. 西洋の製本装丁略史
  3. 15-16世紀前半
  4. 16世紀後半南ドイツ
  5. 17世紀フランス
  6. 17世紀英国
  7. 17世紀ロシア
  8. 18世紀フランス
  9. 18世紀イタリア
  10. 18世紀英国
  11. 19世紀以降英国
  12. 19世紀英国の版元製本
  13. 日本における洋式製本の受容
  14. 幕末の洋式製本
 ヨーロッパにおける製本・装丁の歴史はそのまま書物の歴史に等しく、きわめて多様複雑な展開を示している。ここにその全てを述べることは不可能なので、おもにフランスを中心とした装丁様式の流れを簡単にまとめる。

[古代・中世]

 紀元1世紀頃より、書物の形態はパピルスや羊皮紙の巻物から、冊子体に徐々にかわってゆく。製本(仏reliure, 英Bookbinding)の技術は、美しく彩色された飾り文字で書かれた福音書・祈祷書などを製作していたヨーロッパ各地の修道院から生まれた。これらの修道院では、工芸美術品としても貴重な、豪華な装飾写本の数々が製作された。

[15世紀]

 紙漉き法の伝播と活版印刷術の発明により、インクナブラ(揺籃期本、最初期の印刷本)が出版されるようになり、しだいに写本を駆逐する。製本の需要もふえる。
製本技術そのものは修道院様式をうけつぎ、革による表装、フィッセル(綴じ糸支持体)に麻を用いたかがり綴じが行われ、今日見られるような道具が使用されるようになる。しかし装丁はまだプリミティヴといってよく、モナスチック様式、ゴシック様式などが知られる。

[16世紀]

 ビザンチン、イスラムの影響の下に、書物工芸のルネサンスがイタリアに始まり、ついでフランスにおよぶ。ヴェネチアの印刷・製本業者アルドゥス一族の出版・装丁した書物が全ヨーロッパに影響を与える。愛書家ジャン・グロリエがアルドゥス様式をフランスにもたらし、のちにこれを洗練させる。この時期から一般に書物の判型がフォリオ判からクォート判(1丁8頁)またはオクタヴォ判(16頁)へと小さくなる。革表紙にタイポグラフィックな型押し(金箔)による装丁の始まり。製本工房を兼ねた数多くの書肆が、リヨンおよびパリに現れる。グロリエ風装丁はイギリスへも及ぶ(トマス・ウォットン)。フランスではジョフロワ・トリーによる唐草模様の箔押し装丁が名高い。同じ時期ドイツでは、ルレット(回転式箔押し器具)による多くは空押しの縁取りと中央のプレートに装飾を施した装丁の書物が多く製作された。
 カトリーヌ・ド・メディシス、ディアーヌ・ド・ポワチエなどヴァロワ朝フランス王室によって製本家は保護され、16世紀末には「ファンファール様式」と呼ばれる装飾的な装丁が生まれる。製本家ニコラ・イヴ、愛書家ド・トゥなどが歴史に名を残す。

[17世紀]

 洋式製本は、技術的には16世紀でほぼ完結し、この後は装丁・デザインが洗練されてゆく。素材としてモロッコ革(山羊革)の使用が定着し、天・小口の金箔(ドリュール)も行われるようになる。17世紀フランスを代表するのは、製本家ル・ガスコンの名を冠した、優雅な「ガスコン様式」である。これは「ファンファール」を受け継ぎ、18世紀の「ダンテル」に至る、繊細な金箔点描によるレース模様の装飾であり、イギリスにも影響を及ぼした。
 17世紀にはこのほか、革モザイクと金箔点描を組み合わせた華麗なフロリモン・バディエの装丁、逆にストイックな装飾皆無のジャンセニストの装丁などが特徴的である。

[18世紀]

ルイ15世時代を特徴づけるのは「ダンテル様式」で、ドローム、パドゥルーなどの製本家により、繊細華麗なレース模様の金箔縁取りの施された赤いモロッコ革の書物が多く製作された。
 この世紀から蔵書票(ex-libris)が銅版画などで多くつくられ用いられるようになる。蔵書票の始まりは15世紀末のドイツといわれているが、この時代からさかんになった。
 18世紀末にはフランス革命が起こり、伝統的な装丁は一時放棄される。イギリスではこの時期、ロジャー・ペインの装丁が特筆される。

[19世紀・20世紀]

 フランスでは19世紀初頭、「アンピール様式」が行われ、革命によって中断した古典的装丁が復活する。また、その後につづく「ロマンチック様式」の中では、半革装丁も多くみられるようになる。
 しかし19世紀フランスの製本・装丁はもはやヨーロッパに多くの影響を及ぼし得ない。この時代で最も重要な製本家はイギリスのコブデン・サンダースンであろう。世紀半ばからは製本界にも産業革命の波が押し寄せ、イギリスはいちはやく版元による機械製本を導入した。これへのアンチテーゼとして生まれたのがウィリアム・モリスのケルムスコット・プレスをはじめとする多くのプライベート・プレスであった。
 20世紀に入ると書物はますます大量生産され、ほとんどすべてが版元製本となった。伝統工芸としての手づくり製本は古書補修との関連もありヨーロッパにはかなり残っているが、新たな展開はない。
 製本・装丁が歴史的・文化的に意味をもつのは、15世紀から19世紀にかけて、多くの知識人や王侯貴族が文化・学芸にどのようにかかわってきたかという点であり、書物とそこに記された知識・情報がどのように受け継がれてきたかということだろう。一冊の書物の由来を調べることの意味もそこにある。


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