早稲田大学図書館所蔵貴重資料

杉田玄白肖像
請求記号: 文庫8-A252
杉田玄白肖像

杉田玄白肖像

絹本着色。石川大浪画、杉田玄白自賛。原本。1812(文化9)年、1軸。69.5×28.0cm。
重要文化財(大槻玄沢関係資料のうち)
18世紀後半から19世紀初頭、我が国では蘭学(洋学)への関心が高まり、多くの学者や文化人を輩出したが、 この肖像画に描かれた杉田玄白(1733〜1817)はその中心的な人物である。1774(安永3)年、 前野良沢(1723〜1803)、中川淳庵(1739〜86)らと共に刊行した医学書『解体新書』にまつわるエピソードは名高い。

1771(明和8)年、千住小塚原での刑屍体の解剖に参加する機会を得た彼らは、『解体新書』の原書であるドイツのクルムス (Kulmus, Johann Adam)の著 "Ontleedkundige Tafelen" (いわゆる『ターヘル・アナトミア』彼らが入手したのはそのオランダ語訳版) の記述の正確さに驚き、翌日からさっそく翻訳に取り掛かる。通訳の手も借りず自力で翻訳・出版した『解体新書』は、 内容だけでなく彼らの努力そのものが、蘭学を学ぼうとしている人々におおいに刺激を与えた。

その後、玄白は蘭学創始期の事情を振り返った回想録『蘭学事始』を出版(校訂:大槻玄沢)したが、 ここには『解体新書』完成までの苦労が詳しく記されていて非常に面白い。

本図は、80歳を迎えた玄白の像で『蘭学事始』刊本掲載肖像の原画となったものである。 玄白は、自ら添えた賛で「太平の世に、無事天真を保つ、復是れ烟霞改まり、閑かに80の春を迎う」と書している。

画家の石川大浪は大番組頭を務めた旗本であったが絵を能くし、狩野派に学んでいる。また彼は蘭学者とも非常に親交が深く、 蘭書の挿絵の銅版画などを通じて西洋画に興味を持ったようだ。この作品の他にも玄白の著『形影夜話』に掲載されている半身の玄白の肖像や、 大槻玄沢の著作の挿絵なども描いていることから、その交友の程がうかがわれる。本図も西洋画法を取り入れた肖像画の力作として高く評価されている。 江戸・蘭学の息吹を今に伝える大変貴重な資料であり、他の大槻玄沢関係資料とともに重要文化財に指定されている。

* このページは、早稲田大学学生部発行「早稲田ウィークリー」所収「早稲田の貴重書」に若干修正を加えたものです。
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First drafted Febrary 18, 1998
Last revised November 25, 2005