早稲田大学図書館所蔵貴重資料

仏師運慶自筆置文
請求記号: 文庫12-9
仏師運慶自筆置文

仏師運慶自筆置文

1199(正治元)年10月晦日、2通。重要文化財(尊勝寺領近江国香庄文書のうち)
運慶は平安末から鎌倉前期にかけて活躍した仏師で、それまでの様式とは異なる、力強い鎌倉彫刻の根幹を形づくった人として良く知られている。

本学所蔵の重要文化財「尊勝寺領近江国香庄文書」は、現在の滋賀県愛知郡秦荘町香之庄にあった荘園・香庄にかかわる31通(6巻)の手継文書である。 運慶自筆の文書は2通あり、それぞれ第2巻目の「鳥羽院庁下文」(1138<保延4>年5月20日)と「大江通国譲状」(1112<天永3>年4月13日)の紙背に書かれている。 内容はどちらも、運慶の娘・如意が養母である冷泉局から香庄を伝領することを父・運慶が保証する旨、文字どおり“裏書”したもので、「他人もし此文書をとりてさまたけをなさは、ぬす人ニことはるへし」と、娘以外の人間が相続を妨害したら盗人として処罰されるだろうということなどが書いてある。

しかし、この10年後の1209(承元3)年に冷泉局は、如意が契約に違背したとの理由で香庄を取り返し、新たに迎えた養子の僧尊浄に譲渡してしまう。本文書に墨線が三線横にひかれているのは、運慶の裏書が無効になったことを示している。

このように歴史上の舞台で繰り広げられた人間模様や時代背景などがこうした文書に如実に現われている。仏師・運慶の、また違った側面がうかがえるこの資料、ながく後世に伝えなくてはならない貴重な文化遺産である。 * このページは、早稲田大学学生部発行「早稲田ウィークリー」所収「早稲田の貴重書」に若干修正を加えたものです。
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First drafted Febrary 18, 1998
Last revised November 25, 2005