「早稲田大学創立125周年記念シンポジウム:角田柳作—日米の架け橋となった“Sensei”—」開催報告
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ご挨拶

早稲田大学図書館館長 加藤哲夫

加藤教授本日、コロンビア大学との共同主催ということで、角田柳作先生に関するシンポジウムが開催されることを心より嬉しく思っています。去る10月20日より、この角田柳作先生を広く学内外にご紹介する企画展が始まっています。幸い入場者も多く、多くの方に人としての角田柳作先生を知っていただくことができることは、関係者の1人として、これも嬉しいことの1つです。

開会にあたって、2つのことを申し上げようと思います。第1には、角田柳作先生は言うまでもなくこの早稲田大学の前身である東京専門学校の卒業生であり、この早稲田からコロンビア大学を中心として、アメリカにおいて日本文化を広めた偉大なる先輩を輩出したことです。早稲田は、第二次世界大戦前から中国、韓国から多くの留学生を受け入れてきました。しかしながら戦前における交通手段がそれほど発達していない状況の中では、こちらから多くの留学生や卒業生を送り出す環境は十分ではなく、早稲田から、あるいは卒業生が海外に雄飛する機会がそれほど多くなかったことは言うまでもないところです。

そんな時代にあって角田先生がハワイに渡ったのは、東京専門学校を卒業してからの1909年でした。その後の角田先生の活動の中心は、本日パネラーとしてお話をいただきます早稲田大学の和田敦彦准教授のご著書『書物の日米関係』によりますと、日本についての研究や調査に従事し、かつ日本に関連する文献を洋の東西を問わず集め、あわせて文化的なイベントや出版事業を担う総合的な文化センターの創設にあったということです。しかも、ニューヨークでそれを実現することでありました。角田先生の尽力で、1929年にコロンビア大学に日本研究所が開設され、これがコロンビア大学の日本図書館に結実していくわけです。詳細は企画展示での紹介に譲りたいと思いますが、まさに本大学の創立者である大隈重信の言う「東西文明の調和」に呼応した角田先生の戦前から戦後にかけての一連の活動に見られる、日本文化を海外に伝えることに対する並外れた情熱に、早稲田の同門として誇らしさを感じているところです。

2つには、角田先生の活動を今後における国際交流との関わりでどのように評価するかということです。今日、国際的な学術研究交流が活発に行われています。早稲田大学も200を超える世界各国の大学、研究機関との協定を締結しています。しかしながら、これらが真の意味での教員や学生の相互交流を介した国際交流になっているかと言えば、恐らく国際標準を持っている理工学、経済学の分野での交流が中心なのではないかと、私は考えています。日本文化の持つ固有性は世界の中でも際立っており、とりわけ人文科学、社会科学の分野で顕著に見られるように考えます。これらの分野について、どのように国際的に広がりを一層持たせるかが、私ども研究者のこれからの責任ではないかと感じているところです。角田先生の果たされた役割を、この面での第一歩であったと私は位置づけたいと思います。角田先生の活動をより広く捉えれば、アメリカにおいて国際学術交流の種を蒔き、いわば日本学とも言うべき分野の確立にコロンビア大学で努められたことではないでしょうか。

幸い、これを継承するべく、本日お話をいただきますドナルド・キーン コロンビア大学名誉教授をはじめとして、日本文学、日本文化に関する質の高い研究を実現されている専門家を輩出しています。また、私が所属します法学学術院にあっても、オーストラリア出身のゲイ・ローリー教授が『源氏物語』の研究者として、またドイツ出身のニールス・グュルベルグ教授が『雨月物語』の研究者として国際的にも活躍しています。私の専門である法律学の分野でも、環境法、知的財産法、倒産法などの分野などでは、国際的に活躍する研究者が育ってきています。法律学の分野では、明治期において法学研究が外国法の継受から出発をしたため、これまではどうしても外国法を日本に移入する方向での研究が中心であったと考えます。今後の方向性としては、日本の法制度が国際的にも汎用性を持つようになった現段階では、わが国の法制度なり、法理念なりを積極的に国際的な法基盤の一環に組み込むような努力が必要でしょうし、そのためには外国における日本法研究者が必要な状況に立ち至っています。このように国際的に、言葉は過ぎるかもしれませんが、立ち遅れていた人文社会科学の分野でも国際的な学術交流は実質化されてきています。これをさらに発展させ、人文社会科学の分野にあって、外国における日本研究者がさらに一層多くの専門分野で輩出される必要を痛感します。それは恐らく角田先生が日米の間で往来しておられた頃の、夢に描いた姿なのではないかと。そして、その中心的な役割を大学図書館が担う姿を思い描いていたのではないか。その業績を称えながら、私が推測するところです。

以上、シンポジウムの開会にあたり、私の所感を2点申し上げました。最後に、このシンポジウムの開催にあたり、ご協力をいただきましたコロンビア大学ニール図書館長、ハインリック東アジア図書館長をはじめとする関係者の皆様に厚く御礼を申し上げたいと思います。このシンポジウムが角田先生の偉業を改めて評価する機会であるとともに、大局的には日米における学術研究交流を一層発展する契機になることを念じて、私のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。


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