Web展覧会 No.41
館蔵資料でたどる
書物の歴史

 
II. 写本
印刷術発明以前の書物


 8世紀、初唐の時代に中国で木版印刷が考案され、15世紀半ばにグーテンベルクにより活版印刷が発明されるまでは、書物はすべて写本(しゃほん=手書きの本)であった。
 ヨーロッパでは、パーチメントやヴェラムに美麗な彩色をほどこした装飾写本といわれるものが、また日本では和紙に筆墨で書かれた和歌や物語などの典雅な写本がつくられ、今日までその美しい姿をとどめている。
 書物の形態ははじめ巻物であったが、やがて現在みられるようになった長方形の形となっていった。

古文書
人類が社会的な生活を営む上で、さまざまな文書が取り交わされている。法令、上申書、辞令、借用書、領収書、手紙、数え上げたらきりが無いくらいである。古文書は歴史の証言者として多くのことを我々に伝えてくれる。古文書に使われている紙と形は、それぞれの古文書が実際に使われていたときの様子を知る貴重な手がかりとなる。
 筑前国政所牒案 観世音寺三綱宛
1軸 文庫12-2(1)
天平宝字3年(759)8月5日 保安元年(1120)写
 関連文書4通を1巻に仕立てたもので、巻物の軸の上部が五角形に突出している。これは往来軸(立籤)と呼ばれるもので、ここに標題等を略記し、巻いた状態で積み上げたとき内容がわかるようにしておくためのものである。内容は、観世音寺に借財のあった筑前国在住の者が、その代価として奴婢5人を寺に進上する旨を申請、国がそれを認めたことを観世音寺に伝えたもの。
 後醍醐天皇綸旨(りんじ)
1通 文庫12-209(1)
建武2年(1335)6月27日
綸旨は蔵人が天皇の意を奉じて発給する文書で、「天気如件」などの独特な言い回しが使われ、料紙にも宿紙と呼ばれる漉返しの紙を用いることが特徴である。本文書はいわゆる建武新政期の混乱を背景としたもので、宛名の右兵衛督・西園寺公重に対し、家督相続を認めるという内容である。


巻物(巻子本)
紙を用いた写本の最初の形は巻物であった。木の巻軸を芯にして、長い紙を巻きつけてゆく本のかたちは巻子本(かんすぼん)と呼ばれる。一枚一枚の文書をまとめるため、それぞれを順に糊でつぎ足し、巻いたのである。
オリエントやヨーロッパで、パピルスやパーチメントに記された写本も巻物の形で、名高いアレキサンドリア図書館やペルガモン図書館に所蔵されていたと考えられる。
 大般若波羅密多経 第二百八十二

1巻 ハ5-967 写本 紺紙金泥
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からいと

2巻 ヘ12-2336 写本 16世紀
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折本(おりほん)
お経の本などでおなじみの本の形。巻物はいちいち紙を巻きひろげ、巻きおさめる手間がかかり、読むのに不便なため、巻くかわりに折りたたんだもの。これによって途中の箇所をすぐ開くことが可能になった。
 摩訶般若波羅密経釈論
大智度論 100帖(折本)


ハ5-1659 写本
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列帖装(れっちょうそう)
紙を何枚か重ねて中央で二つに折り、これを一帖として、その何帖かを糸で綴じあわせた書物。和歌や物語などの写本によくみられる典雅な装釘で、胡蝶装・綴葉装ともいう。糸のかけ方は西洋の「かがり綴じ」と同様の方法である。
 つれつれ草 上巻

1冊(列帖装) ヘ10-6865
吉田兼好撰 伝東常縁写
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 源氏物語 五四帖

54冊(列帖装) ヘ2-4867
写本 伝三条西実枝筆 蒔絵匣入
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粘葉装(でっちょうそう)
紙を一枚ずつ文字面を内側にして中央で二つ折りし、折り目の外側を糊で貼り合わせてゆくもの。綴じ糸は用いない。平安時代に中国から伝わったとされる製本法。折本と四つ目綴じの中間的な形態といえる。
 東陽郡烏傷県雙林寺傅大士碑文
1冊 イ4-3153 C1
陳・徐凌(考穆)撰 仁平元年(1151)4月29日 覚朝写
徐凌(考穆、507-583)は、中国・陳代の文人であり、武帝以下3代に仕えるとともに詩人としても著名で『徐考穆集』6巻がある。「東陽雙林寺傅大士碑文」もその中に収められているが、本冊とは内容に相違がある。覚朝は法隆寺の僧侶と伝えられ、厚手の斐紙を用いた粘葉装である。


袋綴(四つ目綴)
最も代表的な和装本の形態。文字面を外側にして紙を一枚ずつ中央から折ってゆき、裏表に表紙をつけて、折り目の反対側を糸で綴じる。糸を通す穴は四つあけるのが普通なので四つ目綴じという。また綴じた側から見れば袋状になるので袋綴ともいう。糸綴じに先立って本文部分のみをこよりで下綴じする。糸をかける順序は一筆書きの要領。唐本の形をまねたもの。鎌倉時代から、江戸時代の木版本までほとんどこの製本法が用いられた。
 文正草子(ぶんしょうそうし)

3冊 ヘ12-3496 江戸時代初期写 奈良絵本
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(C)早稲田大学図書館
June,2003