*今展示会に出品されている作品は、こちらのWEB展覧会(No.17,18)でもご覧頂けます。出展資料の目録情報もこちらをご参照下さい。
企画展「漂流――異界を見た人々――」開催にあたって 早稲田大学図書館 「漂流」とは、海の上で方角を見失い、海流や風の向くままに流されてゆくことをいいます。四方を海にとりまかれた日本では、記録にのこっているだけでも、古くは東シナ海で遭難したといわれる遣唐使船をはじめとして、あまたの恐ろしい海難事故に見舞われてきました。遭難した船に乗っていた人のほとんどは、あえなく犠牲になったものと思われますが、きわめて稀な例として、どこか異国の岸に漂着し、日本とはまったく異なる世界を目にすることのできた人々もいました。といっても、それらの人々の多くは、再び故国の土を踏むこともできず、異郷の地でその生涯を終えることとなりました。そんな中で、大黒屋光太夫ら限られたほんのわずかの運の強い人たちが、再び日本に帰還することができたのです。 無事に日本に戻ったといっても、ちょうど幕末・維新の混乱期に帰還したジョセフ・ヒコ(濱田彦蔵)やジョン萬次郎(中濱萬次郎)のような人達こそ、新知識として世の中に迎えられましたが、それ以前、鎖国を国是とし海外渡航が厳禁されていた江戸時代の漂流民たちの多くは、ロシアから戻った大黒屋光太夫のように、再び親しい人々と会うこともかなわず、江戸幕府によって幽閉されたまま余生を送らざるを得ませんでした。 早稲田大学図書館には、苛酷な運命にもてあそばれた彼ら漂流者たちが、その目で見た異国の風物を語り、また描いたもの、あるいは時の為政者等がとった聞書きなどの資料が、比較的豊富に所蔵されています。そのなかには、逆に日本に漂着した外国人についてのものも含まれています。数奇な運命に翻弄され、心ならずも異郷の地に立ち、異界を見ることになった人々の思いはどんなものだったのでしょうか。 奇観録 桂川甫周撰・亀井南冥漢訳 寛政6年(1794)12月 漂流記 浜田彦蔵撰 文久3年(1863)序刊 漂客談奇 吉田文次撰 2001年12月