館蔵インキュナブラ
(ヨーロッパ15世紀活版印刷本) Part.2

7.ダンテ・アリギエーリ『饗宴』(フィレンツェ、1490年)
DANTE, Alighieri
Convivio.
Florence : Francesco Bonaccorsi, 20 Sept. 1490. 
Quarto. 90 leaves.
196x130 mm. Bound in nineteenth century brown morocco gilt. The first initial illuminated in gold, blue, red and green.
Ref.: HC 5954; BMC VI 673; GW 7973; ISTC id00036000; IJL 122; Yukishima no.6.
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 イタリアの詩人ダンテの『神曲』は活版印刷が始まった15世紀後半に最も人気のあったイタリア文学書である。『神曲』の続編ともいうべき『饗宴』はその陰であまり普及することなく、15世紀中には本書が唯一の印刷本であった。
 館蔵本巻頭のイニシャルSには金箔が貼られ華麗に装飾されており、ルネサンスの雰囲気を伝えているが、装丁は19世紀に改装されたものである。我国では他に近畿大学中央図書館と明星大学図書館が所蔵している。

8.ディオニュシオス・アレオパギタ『著作集』(パリ、1498/99年)
DIONYSIUS AREOPAGITA
Opera (Tr.: Ambrosius Traversarius). Ed.: Jacobus Faber Stapulensis.
Add.: Ignatius Antiochenus (Pseudo-): Epistulae. Polycarpus Smyrnaeus:
Epistula ad Philippenses.
Paris : Johannes Higman and Wolfgang Hopyl, 6 Feb. 1498/99.
Folio. 122 leaves.
278x200 mm. Bound in limp vellum in the 16th century.
Ref.: HC 6223*; BMC VIII 140; GW 8409; ISTC id00240000.
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 著者は伝説的な人物でアテナイ出身の初期教父の一人。彼は新プラトン主義思想の持ち主で、その著作はアルベルトゥス・マグヌスをはじめとする中世の哲学者たちに大きな影響を与えた。本書は彼の著作集では2番目の印刷本。フランス・ルネサンスを代表する人文主義者ルフェーヴル・デタープルにより新たに編集されたもので、ギリシア語からラテン語への翻訳はアンブロジオ・トラヴェルサリによる。当時のパリでは新年の開始がイースターであったため、本書の印行は1498年の2月6日となる。
 館蔵本には16世紀当時の多数の書込みが見られ、第1葉表に修道僧Andre Puigunt?という旧蔵者のサインが見られる。16世紀のリンプ・ヴェラム装。

9.アイケ・フォン・レプゴウ『ザクセンシュピーゲル』(アウクスブルク、1484年)
[他画像]
EIKE VON REPGOW, ca. 1180-ca. 1223
Sachsenspiegel: Landrecht.
Augsburg : Anna Rurgerin, 22 June 1484.
Folio. 373 of 374 leaves (without first blank leaf).
304x215 mm. Bound in contemporary blind-stamped brown calf over wooden boards.
Prov.: Counts of Salm-Reifferscheidt.
Ref.: HC 14077*; BMC II 376; GW 9259; ISTC ie00024000; IJL 133; Yukishima no.2.
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 『ザクセンシュピーゲル』はアイケ・フォン・レプゴウが1224‐27年に編纂したラント法とレーン法からなる封建法であり、ニュルンベルク司教テオドリクス・フォン・ボクスドルフによって増補されたものである。最初の印刷本は1474年に刊行されたラント法であり、1481年にはアウクスブルクのアントン・ゾルクがラント法第2版を大型二折判で刊行した(北海道大学附属図書館蔵)。
 1484年刊行の本書は1482年にアウクスブルクのヨハン・シェースペルガーが印行したラント法第3版の再版である。印刷業者アンナ・リューゲリンはシェンスペルガーの共同経営者トマス・リューガーの未亡人である。本書はシェンスペルガーの活字を使用して印刷されているため、シェンスペルガーの指導のもとに印行されたものとみなされよう。
 館蔵本は15世紀のアウクスブルクの空押し子牛革装丁を留めている。表裏の表紙見返しにはドイツ語とラテン語のインキュナブラの反故紙が製本用に利用されていた。表表紙の見返しの1葉は活字からシェンスペルガー印行本であることが判明しているため、本書の製本がシェンスペルガーと密接に関係していたことが明らかである。第2葉表の書き込みからザール地方のライファーシャイト伯爵家に所蔵されていたものである。

10.サン・ヴィクトルのユーグ『学習論』(シュトラースブルク、1475年以前) 
HUGO DE SANCTO VICTOR
Didascalon et alia opuscula.
[Strassburg : Printer of Henricus Ariminensis, not after 1475].
Folio. 237 of 244 leaves (first 6 leaves wanting and without last blank leaf).
270x200 mm. Bound in contemporary blind-stamped brown calf over wooden boards.
Prov.: Mr. Taikichi Yamada.
Ref.: HC 9022*; BMC I 78; ISTC 00532000.
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 サン・ヴィクトル修道院長のユーグが1128年に著した読書による学習法を学生に説いた名著『学習論』初版。全体は2部に分かれ、第1部(第1−3章)で自由七学科、第2部(第4−6章)で聖書の解釈が述べられている。本書はヨーロッパ中世の学問・書物・読書術に大きな影響を与えた。本書の刊行は最近では1474年以前と考えられるようになっている。
 館蔵本は巻頭6葉と巻末の白紙葉を欠き後代に修補された不完全本であるが、15世紀当時のゴシック製本を留めている。本学名誉賛助員故山田泰吉氏寄贈。

11.ユスティニアヌス『旧学説彙纂』(ヴェネツィア、1484年)
[他画像]
JUSTINIANUS
Digestum vetus (with the Glossa ordinaria of Accursius).
Venice : Johannes and Gregorius de Gregoriis, de Forlivio
and Jacobus Britannicus, 15 Dec. 1484.
Folio. 349 leaves.
427x285 mm. Bound in contemporary blind-stamped brown calf over wooden boards, with two metal clasps and coner and center metals.
Prov.: Georg Altdorfer; Monastery of S. Mang, Fuessen.
Ref.: H 9551*; BMC V 340; GW 7664; ISTC ij00549500; IJL 190.
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 ユスティヌアス法典の一つ学説彙纂はローマ時代の法学者の著作の抜粋集成であり、全三部50巻からなる。本書はそのうちの最初の部分で第1‐24巻途中までを含むvetus(旧)と呼ばれているものである。15世紀中にユスティニアス法典はそれぞれの部分の書名で多数刊行され、やがて16世紀に「ローマ法大全」としてまとめられていった。本書を印刷したグレゴリイス兄弟はボエティウス著作集第2版を印行した15世紀ヴェネツィアを代表する印刷業者。
 館蔵本の第1葉には法典を授けるユスティニアヌスの姿が豪華に描かれ、欄外余白は唐草文様で華麗に装飾されている。また、欄外下方の余白に描かれた修道僧とクマは聖マンクの伝説を表すものである。その傍らに旧蔵者のイニシャル「GA」が記された盾が置かれており、15世紀末バイエルンのフュッセン修道院長Georg Altdorferとみなされている。また、"S. Magni in Fuessen"という17世紀の手書きの書き込みがあり、聖マンク修道院旧蔵であったことを明かにしている。
 装丁は15世紀南ドイツの堅牢な空押し子牛革装である。

12.ルカ・パチョーリ『算術、幾何学、比例、比率全書』(ヴェネツィア、1494年)
LUCAS DE BURGO S. SEPULCHRI, ca. 1445-1517
Somma di arithmetica, geometria, proporzioni e proporzionlita.
Prelim: Fa. Pompilius: Epigramma ad lectorem. Giorgio Sommariva:
Epigramma ad auctorem (I, II).
Venice : Paganinus de Paganinis, 10-20 Nov. 14[9]4.
Folio. 307 of 308 leaves (leaf 44 wanting).
311x217 mm. Bound in quarter modern brown calf over wooden boards.
Prov.: Prof. Kyojiro Someya.
Ref.: HC(+Add) 4105; BMC V 457; ISTC il00315000; IJL 201.
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 パチョーリはトスカーナ地方の小都市サンセポルクロ出身の数学者。郷里でルネサンス時代を代表する数学者にして大画家であったピエロ・デッラ・フランチェスカに師事し、次いでヴェネツィアで商家の子弟の家庭教師を務める傍ら実用数学を学んだ。そして、フランチェスコ修道会の修道僧としてイタリア各地で数学や幾何学の教鞭を取った。本書は彼の著作の中で最初に印刷された数学全書であるが、彼のオリジナルな著書というよりも当時の数学的知識をまとめたものである。本書を印刷したパガニーノ・ダ・パガニーニは木版画を多数挿入する印刷の経験が乏しかったため、苦労して本書を印行したと思われる。そのため、パチョーリ自ら印刷に立ち会って指導したという。本書は我国でもよく知られたインキュナブラである。それは最初に印刷された複式簿記論が本書の205葉裏から218葉裏にかけて含まれており、簿記書の原典として高く評価されているからである。本書の初版には3種類の異版が知られている。イタリアのインキュナブラ総合目録で7132、7133、7134の番号で区別されている。このうち、7132が初版第1刷であり、最も現存数が多い。館蔵本もこれにあたる。7134は1502年に29葉分の版を組替えたものであり、7133は1509年以降にさらに一部を替えて成立したとみなされている。なお、本書の第2版が1523年に北イタリアの小都市トスコーラノで刊行されている(本学所蔵)。
 館蔵本は、「フィンガーサイン」で数字を表す木版画が印刷された第44葉を欠く不完全本であり、近代になって改装されたものである。早稲田大学名誉教授故染谷恭次郎氏旧蔵書。我国では本学以外にも大阪学院大学、大阪商科大学、神奈川大学、久留米大学、慶應義塾大学、神戸大学、専修大学、日本大学商学部、広島経済大学で所蔵されている。神戸大学本は7134であり、他は全て7132。
 参考文献:我国パチョーリ簿記論の軌跡 上下巻 片岡泰彦編 東京 : 雄松堂書店, 1998.6


 
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