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イギリス・ロマン派学会創立25周年記念展示会 「ロマン派の歴史と伝統 ―初版本と貴重書を中心に―」

「ロマン派の歴史と伝統―初版本と貴重書を中心に―」目録


◆Paradise Lost
 Printed by S.Simmons, and are to be sold by T.Jelder: London, 1669
 Milton, John (1608-1674)  貴FE-150441万行、12巻にわたる長編叙事詩。人間の堕落をテーマに、アダムとイヴが神を裏切り、楽園から追放されるという聖書の創生記に取材した作品。ロマン派詩人の作風に大きな影響を及ぼした。

◆The Rape of the Lock
 Printed for Bernard Lintott: London, 1714
 Pope, Alexander (1688-1744) 貴F931-479
18世紀の貴族社会に実際に起こった事件を題材に、ホメロスやウェリギリウスを模しながら、英雄詩体二行連句を用いた傑作。作品中のオカルティズムは、当時のヨーロッパでよく読まれたモンフォコン・ド・ヴィラールの『ガバリス伯爵』(1670)の影響。

◆Miscellanea
 Printed for E.Curll: London, 1727
 Dryden, John (1631-1700) & etc. 貴F931-474
 主にドライデン、ポウプ、スウィフトの雑文を集めたもの。第1巻にはポウプ、ヘンリー・クロムウェル、スウィフトの詩とドライデンの書簡、第2巻には「愚弄」と「既婚女性の財産相続」等に関するドライデンの論考、スウィフトの詩が収められている。

◆The Pleasures of Imagination
 Printed for R.Dodsley: London, 1744 (1st edn.)
 Akenside, Mark (1721-90)
詩人・医者であるエイケンサイドによる哲学詩。想像力の喜びを、崇高なものや美しいものに関連するものと、感覚的なものとに分けて論じ、記憶や連想の喜びについても述べる。ニュートンの虹の説明やプラトン哲学等、言及は多岐にわたる。

◆Fingal, an Ancient Epic Poem
 Printed for T.Becket and P.A. De Hondt: London, 1762 (1st edn.)
 Macpherson, James(1736-96) (Trans.)
ジェイムズ・マクファースンが、ケルト民族の古歌オシアン詩の『フィンガル』の英訳として出版した叙事詩。サミュエル・ジョンソンはこれをマクファースンの偽作と断じたが、オシアン詩は全ヨーロッパのロマン派に多大な影響を与えた。イギリスではブレイクやバイロン等の作品に、オシアン詩の引用および模倣のあとが多々みられる。

◆Collection of Poems
 Printed for R.Dodsley: London, 1766 (1st edn.)
 『アニュアル・レジスター』誌の創刊者として知られるロバート・ドッズリーが出
版した紳士必携の詩華集。グレイ、エイケンサイド、コリンズ、クーパー、ヤング、
シェンストーンらの作品が収められており、ポウプ以降の18世紀イギリス詩壇を知る上で欠かすことのできない選集である。

◆Reliques of Ancient English Poetry
 Printed for F.C. and J.Rivington and etc.: London, 1812 (5th edn.)
 Percy, Thomas (1729-1811)
チョーサー以前からチャールズ1世の頃までのバラッド、ソネット、ロマンス詩を集めた3巻本。1765年から1794年までの間に4版を数え、この版は第5版である。巻末には、マレット、ティッケル、シェンストーン等の18世紀詩人の作品も載せられている。

◆The Poems of Mr.Gray to which are prefixed memoirs of his life andwritings by W.Mason
 Printed for J.Dodsley: London & J.Todd: York (York edn) , 1775
 Gray, Thomas (1716-1771) FE-9744
前半部はメイスンによるグレイの評伝で、ホールス・ウォールポウル(Horace Walpole)やリチャード・ウェスト(Richard West)ら友人との書簡も含まれている。詩集部分はグレイの生前に出された版に、草稿から起こして新たに作品を加えたもので、同じくメイスンによる注釈や異稿の説明がついている。なおワーヅワスは少年時代にグレイの詩をこの版で読んだ。(Wu, Wordsworth's Reading, 1770-1799, CUP. p70)

◆The Castle of Indolence
 Printed for A.Millar: London, 1766
 Thomson, James (1700-1748) FE-8836
魔法使いの「怠惰」('Indolence')によって美しい城に誘いこまれた旅人たちは倦怠を覚え、穴倉の中で無為に過ごす。魔法使いは征服され、城は勤勉な武士によって破壊される。スペンサー連で書かれ、ワーヅワスがその韻律と詩的用語を賞賛した。

◆ Poems, supposed to have been written at Bristol, by Thomas Rowley, and Others, in the Fifteenth Century
 Printed for T.Payne and Son: London, 1777 (1st edn.)
 Chatterton, Thomas (1752-1770) 高田 F931-Y0100
青年トマス・チャタトンは15世紀に創作された詩だと偽って、作品をロンドンの書籍商に持ち込むが、贋作と怪しまれて出版できず、結局彼は貧困と自暴自棄の中で自殺した。この詩集は彼の知人による死後出版である。ワーヅワスやキーツらにも称賛され、
1803年にはサウジーとジョウゼフ・コトルが協力し、予約購読出版で彼の著作集を世に出 した。

◆The Task
 Printed for J.Johnson: London, 1785 ( 1st edn.)
 Cowper, William (1731-1800)
 『課題』という表題は、著者がオースティン令夫人から無韻詩の試みを勧められ、主題にソファを示されたことに由来する。ソファの進化に始まり、田園生活の喜びが詳細に謳われる。バーンズが賞賛し、ワーヅワスの『序曲』にも影響を与えた作品である。

◆Poems, chiefly in the Scottish dialect
 Printed for the author, and sold by W.Creech: Edinburgh, 1787
 Burns, Robert (1759-1796)
44編から成り、スコットランドのキルマーノックで出版したことで「キルマーノック版」として知られる処女詩集(1786)に、比較的穏健な題材の22編を加えた版。通称「エディンバラ版」と呼ばれる。予約購読者の氏名一覧が付いている。

◆The Botanic Garden
 Printed for J.Johnson: London, 1799 (4th edn.)
 Darwin, Erasmus (1731-1892) 貴F931-848
 自然思想詩人エラズマス・ダーウィンは、ジョンソン博士のサークルの一員で、医師でもあった。ポウプの英雄詩体二行連句で書かれており、『生長の秩序』(The Economy of Vegetation)と『植物の愛』(The Loves of the Plants)の2部からなる。後者をパロディ化したThe Loves of the Triangleが1798年『アンティ・ジャコバン』誌(The Anti-Jacobin)に掲載されている。ダーウィンの思想はコウルリッヂをはじめとした多くのロマン派詩人に影響を及ぼした。

◆The Mysteries of Udolpho, A Romance
 Printed for G.G. and J.Robinson: London, 1794 (1st edn.)
 Radcliff, Ann Ward(1764-1823)
ゴシック小説のベストセラーの一つ。16世紀のフランスとイタリアを舞台にした物語で、数々の複雑怪奇かつ危険な事件に見舞われる主人公エミリィだが、最後は幸福を得る。オースティンの『ノーサンガー修道院』はこの作品のバーレスクである。

◆Lyrical Ballads
 Printed for Longman, 1800 (2nd edn.)
 Wordsworth, William (1770-1850)
ワーヅワスとコウルリッヂの共同詩集の第2版。初版は匿名で1巻本であったが、この版からワーヅワスが著者を名乗り、彼の作品だけを収めた第2巻と彼の詩論が展開される序文が増補された。第1巻にはコウルリッヂの「老水夫の詩」やワーヅワスの「ティンタン修道院」等が収められ、第2巻にはルーシー詩編や「マイクル」等を収録する。

◆Memorials of a Tour on the Continent, 1820
 Printed for Longman Hurst, Rees, Orme, and Brown: London, 1822 (1st edn.)
 Wordsworth, William (1770-1850) 貴F931-215
ナポレオン後のヨ−ロッパ各地の印象が綴られている。妹ドロシ−の日記に入れるために書かれた。展示品は湖水地方ライダル・マウントの隣人に贈られたもので、扉にワーヅワスの自署がある。

◆Poems on Various Subjects
 Printed for C.G. and J.Robinsons, and J.Cottle: Bristol and London, 1796(1st edn.)
 Coleridge, Samuel Taylor (1772-1834) 貴F931-128
コウルリッヂの処女詩集。 「宗教的瞑想」(‘Religious Musings’)等、コウルリッヂの思想・芸術の出発点になった作品の他に、C.ラムの詩もC.L.の署名で含まれている。

◆Poems, by S.T. Coleridge, Second edition. To which are now added Poems by
 Charles Lamb, and Charles Lloyd.
 Printed by N.Biggs, for J.Cottle, and Messrs.Robinsons: Bristol and London, 1797
 Coleridge, Samuel Taylor (1772-1834) 貴F931-130
Poems on Various Subjectsの第2版。コウルリッヂは初版の三分の一を削り、新たな自作の詩や 「宗教的瞑想 」の改訂版とともに、ラムとロイドの詩を付け加えた。

◆Christabel: Kubla Kahn, A vision; The Pains of Sleep.
 Printed for J. Murray, by W.Bulmer and Co.: London, 1816 (1st edn.)
 Coleridge, Samuel Taylor (1772-1834) 貴F931-764
 「クリスタベル」('Christabel')と「クーブラ・カーン」('Kubla Khan')は1797年から1800年の間に書かれたと考えられているがともに未完である。 「眠りの痛み」('The Pains of Sleep')は1803年の作である。1816年に書籍商マレーにより、三篇の詩が一冊にまとめられた。

◆Sonnets, and Other Poems
 Printed by R. Cruttwell: Bath, and Sold by C. Dilly: London, 1796 (5thedn.)
 Bowles, William Lisle(1762-1850) 貴F931-85
 1789年にボウルズはFourteen sonnets , elegiac and descriptive, written during atour..を出版した。このソネット集は、当時の感傷的な自然詩の流行に合致したもので、若き日のコウルリッヂ、サウジー、ラムらに影響を与えた。これはその第五版。27のソネットと15の詩が収められ、アルキンの手による銅版画が添えられている。

◆Poems by Robert Southey
 Vol. 1 Printed by Biggs, for J. Cottle: Bristol, 1797
 Vol. 2 Printed for T.N. Longman and O. Rees, by Biggs and Cottle: London,1800
 Southey, Robert(1774-1843)
 サウジーの詩集の第二版。 「メアリ・ウルストンクラフトへ」('To Mary Wollstonecraft')、 「奴隷貿易についての詩」('Poems on the slave trade')、「"兵士の妻」('The soldier's wife')等の詩のタイトルから窺えるようにサウジーの当時のジャコビニズムが明確に表現されている。またその平明なスタイルは、ワーヅワス、コウルリッヂの『リリカル・バラッヅ』を先取りしたものとしても注目される。

◆The Lay of the Last Minstrel: a poem
 Longman, Hurst, Rees, and Orme: London, 1806
 Scott, Walter, Sir (1771-1832) 古F931-180
6巻から成る叙事詩でスコットの出世作。16世紀の国境伝説に基き、老いた吟遊詩人が物語を歌う。中世趣味や超自然的要素など、コウルリッヂの 「クリスタベル」の影響が随所にみられる。ロングマン社が好条件で版権を獲得、1815年までに15版を重ねた。

◆The Lady of the Lake
 Printed for W.H.Wyatt, by B.McMillan: London, 1811
 Eyre, Edmund John (1767-1816) / Scott, Walter, Sir, (1771-1832) 貴F932-69
6巻から成る叙事詩で、16世紀のカトリヌ湖を背景に恋愛と血闘が繰り広げられる。スコットの作品中もっとも好評を博し、批評家の受けも良く、初版から第6版まで合計22050 部を一年で売りつくす大ベストセラ−となった。

◆Irish Melodies
 Printed for J.Power and Longman: London, 1825
 Moore, Thomas (1779-1852) F931-171
アイルランドのダブリンに生まれたムアは後年バイロンと親交を結び、多くの詩を書いた。彼の有名な叙情詩「夏の終わりの薔薇」はこの詩集に含まれる。

◆English Bards and Scotch Reviewers
Printed for James Cawthorn : London, 1809
Unauthorized reprint of first edition.
 Byron, George Gordon, Baron (1788-1824) 貴F931-91
『エディンバラ・リヴュー』誌で『怠惰の時』(1807)を酷評され、それに反論する形で書かれた諷刺詩。この詩においてバイロンは、ワーヅワス、コウルリッヂなどのロマン派詩人を攻撃し、ドライデン、ポウプなどの古典主義的詩人を賛美している。

◆Childe Harold's Pilgrimage
Printed for J. Murray : London, 1816 (1st edn, 2nd issue)
 Byron, George Gordon (1788-1824) 貴F931-93
4巻からなるスペンサー連を用いた紀行記風の物語詩。この詩でバイロンの名声は大衆的なものとなった。「ある朝目を覚ますと私は有名だった」の言葉はあまりにも有名。

◆Don Juan
 Printed for J. Smith : London, 1828
 Byron, George Gordon (1788-1824) F931-227
8行詩体の詩形を用いた16巻からなる未完の叙事詩。バイロン独特の機知と冷笑により既存の体制が諷刺される。コウルリッヂ等のロマン派詩人も嘲笑の的になっている。

◆The Centi
 Printed for C.& J. Ollier, 1819
 Shelley, Percy Bysshe (1792-1822) 貴F932-360
シェリーはイタリアに滞在し、1819年にローマの貴族チェンチ一家の悲劇を5幕物の芝居にしたのがこの作品である。この芝居脚本はコヴェント・ガーデン劇場に送られたが、上演を拒否された。

◆Queen Mab
 Printed for W.Clark : London, 1821
 Shelley, Percy Bysshe (1792-1822) 古F931-194
1813年に私家版として出された。この1821年版は最初に公にされた版。妖精女王マブが少女アイアンシの魂を天に案内し、誤った社会制度や宗教の害悪を教えるというもの。ゴッドウィンの思想に影響をうけており、労働階級や社会主義者に広く読まれた。

◆The Poetical works of Percy Bysshe Shelley
 Printed for E.Moxon : London, 1839
 Shelley, Percy Bysshe (1792-1822)
 /Shelley, Mary Wollstonecraft (1797-1851) 古F931-197
死後、夫人のメアリによって編まれた。刊行当時決定版と見なされ、テクスト、注釈ともに後の編者から高い評価を受けている。シェリ−の実父が難色を示したために出版が遅れたという事情がある。

◆Poems
 Printed for C.& J.Ollier: London, 1817(1st edn.)
 Keats, John (1795-1821) 貴F931-472
詩人21歳の第一詩集で、「スペンサ−にならいて」「初めてチャップマン訳のホ−マ−を読んで」「睡眠と詩」など31篇を収める。執筆時医学生だったキ−ツは、これを機に詩人となることを決意し、医師業を放棄した。

◆Endymion: a poetic romance
 Printed for Taylor and Hessey: London, 1818 (1st edn.)
 Keats, John (1795-1821) 貴F931-73
初の長編物語詩で、ギリシャ神話における羊飼いエンディミオンと月姫シンシアの物語をモティ−フとしている。『クォ−タリ−・リヴュ−』誌や『ブラックウッヅ・エディンバラ・マガジ−ン』誌で酷評を受けたが、現在では代表作の一つになっている。

◆Lamia, Isabella, The Eve of St. Agnes, and other poems
 Printed for Taylor and Hessey: London, 1820 (1st edn.)
 Keats, John (1795-1821) 貴F931-74
表題作の物語詩のほか、叙事詩「ハイピリオン」、珠玉のオゥド群など多様な作品を収める。前二作と異なり、批評は概ね好意的であった。刊行後キ−ツは転地療養のためイタリアに旅立ち、これが最後の詩集となった。

◆The Story of Rimini
 Printed for J.Murray: London, 1816 (1st edn.)
 Hunt, Reigh (1764-1859)
ダンテの『神曲』に基きパオロとフランチェスカの物語を扱った長詩。口語の取り入れ、豊かなイメジャリーがキーツらロマン派に影響を与えたが、『ブラックウッヅ・エディンバラ・マガジーン』誌の連載記事「コックニー詩派について」で酷評された。

◆The Lyrical Tales
 Printed for Longman: London, 1800 (1st edn.)
 Robinson, Mary (1758-1800)
コヴェント・ガーデンの女優、皇太子の恋人、と華やかな経歴をもつロビンスンは、後年不運に見舞われたが、詩人、小説家として活躍した。彼女はコウルリッヂ、ゴッドウィン、メアリ・ウルストンクラフト、画家J.レイノルズとも交友があった。

◆Poems
 Printed for T. Cadell and W. Davies: Liverpool, 1808 (1st edn.)
 Browne, Felicia Dorothea(1793-1835)
 後の著名作家ヘマンズ夫人(Mrs Hemans)の処女詩集。8歳から13歳までの間の創作で、出版当時は15歳であった。批評は妥当なものであったが、芳しくなかったため、少女はショックで寝込んでしまったという。なおこの版は予約購読出版された。

◆Poems
 Printed for T.N. Longman: London, 1811
 Mrs. Opie, Amelia (1769-1853)
ウィリアム・ゴッドウィンやメアリ・ウルストンクラフトと交友を結んだオピーは、詩人と小説家として知られるが、左翼的政治信条をもっていた。

◆Psyche
 Printed for Longman, Hurst, Ree, Orme, and Brown: London, 1812
 Tighe, Mary (1770-1810)
 スペンサー連を用いた6巻の長編物語詩。死後出版されたが好評を博し、ロンドンでは4版を重ねる。キーツも魅了され、「サイキによせるうた」と「ギリシャ古甕のうた」にはこの詩から借用した箇所がある。


【ロマン派文学関連書】

◆Reflections on the Revolution in France
 Printed for Thomas M'Lean: London, 1823 (2nd edn.)
 Burke, Edmund (1729-1797)
フランス革命を称えたプライス牧師の説教(1789年11月)に反発して書かれた論説。革命は社会を貧困と無秩序へ導くとし、国内の革命運動に向けて異を唱えたものであったが、国外にも反響を呼んだ。

◆An Enquiry concerning the Principles of Political Justice
 Printed for G.G. and J. Robinson: London, 1796 (2nd edn.)
 Godwin, William (1756-1836)
フランス革命思想の流れを汲む急進的思想の書。制度・政府の廃止を唱えたが、暴力革命は否定する。35シリングと高価だったがよく読まれ、改訂版も出た。ワーヅワス、シェリーらに大きな影響を与えた。

◆Remarks on Forest Scenery, and other Woodland Views
 Printed for R. Blamire: London, 1791
 Gilpin, William (1724-1804)
18世紀の80年代以降、ギルピンの絵筆になるイングランドとウェールズの風光美を伝える彼の幾冊からの旅行記は、ロマン派詩人にピクチャレスクの美に対する関心をいだかせた。


【ロマン派時代 定期刊行物】

◆The Gentleman's Magazine
 Printed for F.Jeffries and Edward Cave: London, 1731-1914
 Editors: Edward Cave, Samuel Johnson & etc.
エドワード・ケィヴが発行した『ジェントルマンズ・マガジーン』誌は「マガジーン」の原型を創始した、最も歴史的な総合文化雑誌で、歴史的事実の記述は信頼性が高い。一時ジョンソン博士も寄稿家となったが、ロマン派の時代には歴史的記述と新刊紹介等に価値があり、バイロンの新刊紹介やキーツの父親の死亡記事を詳しく伝えている。

◆The Lady's Magazine
 Printed for John Wheble, George Robinson, Baldwin, Cradock & Joy: London,1770-1819
 Editor: John Huddleston Wynne
娯楽性と啓蒙性を兼ね備えた女性向け月刊総合誌。挿絵付きファッション情報やレシピ、楽譜や刺繍見本等の実用的なものに加え、国内外のニュースや旅行記、偉人の伝記や学術的エッセイ、それに詩歌や物語、演劇評等、社交場での話題に有用な情報も満載している。

◆The Scots Magazine
 Printed for Alexander Murray and James Cochrane: Edinburgh, 1739-1793
 Editors: William Smellie & etc. SZ-316
スコットランド唯一の月刊総合雑誌で『ジェントルマンズ・マガジーン』誌を模倣した。政治等の一般記事、書評、小説、詩、短編を掲載し、ポウプやヤングの作品を載せる。

◆The Critical Review
 Printed for R. Baldwin and W. Simpkin: London, 1756-1817
 Editors: Tobias Smollett & etc.
スモレットが主筆格で編集発刊した月刊評論誌。ジョンソン博士、ゴールドスミス、ヒュームらが寄稿。この誌上でサウジーが『リリカル・バラッヅ』を酷評した。

◆The Anti-Jacobin Review
 Printed for J. White: London, 1797-1821
 Editors: George Canning & etc.
G. カニングやジョージ・エリスらが刊行した週刊誌だが、翌年より月刊誌になる。保守主義に立脚し、フランス革命に反対する論説を揚げる。この雑誌には社会風刺漫画が掲載され、ブレイクのブレアの詩「墓」の挿画も、最初はこの雑誌に載せられた。

◆The Edinburgh Review
 Printed for Archibald Constable, Edinburgh, 1802-1929
 Editors: Francis Jeffrey & etc. SZ1-49
A. コンスタブルが創刊した季刊の評論誌。F.ジェフリーが編集し書評も書き、創刊当初からワーヅワスら湖水派詩人を攻撃した。ウィッグ党を支持。

◆The Examiner
 Printed for John Hunt: London, 1808-1887
 Editor: Leigh Hunt (1784-1859)
ロマン派時代の最左翼の文芸雑誌で、リィ・ハントによって創刊された。ハントはこの雑誌の「聖パトリックの主日における摂政殿下」の文章で皇太子を誹謗したとされ、3年間の懲役刑を蒙った。この雑誌の左翼路線は1815年以降に修正され、やや右傾化した。

◆The Quarterly Review
 Printed for John Murray: London, 1809-1962
 Editors: William Gifford, John Murray & etc.
J. マレーが創刊した季刊誌で『エディンバラ・リヴュー』誌に対抗する雑誌として有名。論調は総じて保守的。主筆はW.ギフォードらが務め、スコット、カニング 、サウジーらが寄稿する。1818年にキーツの『エンディミオン』をJ.W.クローカーが酷評した。

◆Blackwood's Edinburgh Magazine
 Printed for William Blackwood: Edinburgh, 1817-1980
 Editor: William Blackwood
エディンバラの出版者ウィリアム・ブラックウッドが創刊した月刊誌。超保守主義の論調をかかげ、ハント、ラム、キーツらを「コックニー詩派」と呼んで、酷評をあびせた。その論者ロックハートは『ロンドン・マガジーン』誌のジョン・スコットと決闘に及んだ。

◆Fraser's Magazine
 Printed for James Fraser: London, 1830-1882
 Editor: William Maginn
ジェイムズ・フレイザー社より、ウィリアム・マギンを主筆にして刊行された、ロマン派時代最後の文芸雑誌。この雑誌は『エディンバラ・リヴュー』誌や『クォータリー・リヴュー』誌などと並ぶ発行部数を誇った。コウルリッヂ、スコット、ヘイズリットら、当時の文壇人とのインタヴュー記事は人気を呼んだ。


【ロマン派文学の日本での受容と研究−明治から昭和初期】

◆『西国立志編 原名 自助論』
 1871年(明治4年)
 中村正直(訳) 文庫11-A1466
 文明開化の風潮とともに、西洋から新しい自由主義・功利主義思想が啓蒙思想家によって紹介されていた中で大きな役割を果たしたのが本書。J.S.ミルとS.スマイルズの著書Self-Help (1859年)の翻訳である。全11冊から成る。『西国立志編』と題された本書は「明治期の聖書」と評されるほどによく読まれた。訳者の中村は昌平坂学問所に学び、のちに同校教授となった。駿河国静岡藩 木平牽謙一郎蔵との記述がある。

◆『梅蕾餘薫』
  春陽堂 1886−1887年(明治19−20年)
  牛山良助 訳述・翻案 明ヘ22-8858
スコットの小説『アイヴァンホー』の翻訳。スコットの作品は、明治13年坪内逍遥の手になる『春風情話』が出て以来、相次いで翻訳出版された。原作の大意を汲み取り漢語的な表現を多用した、いわゆる「豪傑訳」であり、また当時の世相に鑑み政治性が強調されている点が特徴である。

◆「日本韻文論」(2)
 民友社『国民の友』第99号 1890年(明治23年10月13日)
 山田美妙 サイ28
 西洋詩の知識に基づいて日本韻文の詩格、語調、脚韻などを研究した詩論。七五調以外の、当時は破格とされた新しい律格を提案し、明治詩壇に論争を巻き起こした。イギリス・ロマン派をエリザベス朝と並ぶ詩の隆盛期として紹介している。

◆『英国文学史』
 博文館 1891年(明治24年)
 渋江 保 明ヘ22-8645
本書は「英国文学史」であるが、附録として米国文学史の項目もある。ディッケンズ、サッカレー、テニスン以降の文学史は扱っていない。J.キーツの項では「夙ニ外科醫ノ門生トナル。、、、千八百十八年ヲ以テ裨詩エンヂミオンヲ著ス。然ルニ毎季雑誌ノ過酷ナル且ツ嘲笑ノ意ヲ帯ヒタル批評ヲ爲セシカバ、氏ハ懷劒モテ胸ヲ貫カルルノ念ヒヲ爲シ、、、。」とある。著者の渋江は東京高師及び慶応義塾卒。父親は渋江抽斎。

◆「郭公詞」
女学雑誌社『女学雑誌』第322号 1892年(明治25年7月2日)
島崎藤村 訳・解説 サヘ589-25
 「無名氏」の名でワーヅワスの「郭公によせて」を翻訳、解説したもので、藤村のワーヅワス観を探る重要な資料の一つ。「吟はことごとく自然に出で」や、「その詩趣の寂たるを聴くべし」など、ワーヅワスの作品と詩論に多大な影響を受けた跡が見られる。

◆『ヲルヅヲルス』
民友社 1893年(明治26年)
宮崎湖処子(八百吉)
 本書は民友社による「拾貳文豪」(The Twelve Men of Letters)シリーズの第4巻。「詩人前記」、「詩人正記」、「詩人後記」の3期に分けてワーヅワスの生涯・作品を論じている。宮崎は東京専門学校(早大)政治科卒。ワーヅワスと陶淵明に強く影響を受け、明治26年『湖処子詩集』を刊行し、島崎藤村以前の代表的抒情詩人とみなされている。

◆『チャイルド・ハロールド 江湖漂泛録』
 増子屋書店 1898年(明治31年)
 高橋五郎 講述  文庫1-381
 本書は翻訳本ではなく、原文(Canto Iのみ)に約70ページにわたる詳細な注をつけた注釈本の体裁をとっている。訳者の高橋は評論家・英語学者。漢学・国学を修め、さらに緒方惟考から洋学を、ブラウン牧師から英・仏・独語を学ぶ。『プルターク英雄伝』等の翻訳の他に、『最新英語教習法』や『英語実研百活』等の英語教育の著書もある。

◆『英文学史』
 東京専門学校出版部 1901年(明治34年)
 坪内雄蔵(逍遥) 明ヘ22-50
東京専門学校の講義録のために起稿したもので、邦文による英文学史の先駈けとなった。ダウデン、テーヌ、セインツベリなどの文学史を参考に上古文学から説き起こし、記述は哲学、神学、科学にまで及ぶ。1893年から雑誌『早稲田文学』に連載した「英文学史綱領」を土台にしている。

◆『文界之大魔王』
 大学館 1902年(明治35年)
 木村鷹太郎 著  明ヘ22-1363
 本書は明治・大正期の思想家によるバイロンの解説書で、「英国に於けるバイロン」、「外国に於けるバイロン」、「バイロンの思想、文学、哲学」、「英雄バイロン」の4つのパートに分けて論じられている。著者の木村は井上哲次郎門下で、雑誌『日本主義』を創刊。ロマン派文学やギリシャ古典にも通じ、『プラトーン全集』の翻訳もある。

◆『ヰリアム・ブレーク 彼の生涯と製作及びその思想』
 洛陽堂 1914年(大正3年12月)
 柳宗悦 著 チ4-3771
柳は学習院高等科の頃、雑誌『白樺』の創刊に参加。東大卒業前に『科学と人生』を執筆し、心霊学や神秘主義の研究を行なう。英国人バーナード・リーチとの親交を通して、神秘詩人ブレイク研究への道を開く。彼への献辞で始まる本書の序において、柳は「此の書はブレークに對する批評ではない。人間そのものの評価である」と述べている。

◆『エリア随筆集』
 国民文庫名著刊行会 1927−29年(昭和2―4年)
 平田禿木 訳 
 本書も国民文庫名著刊行会によるシリーズものの1つ。訳文に加え、詳細な注、年譜、英語原文が添えられている。訳者の平田禿木は英文学者で随筆家。北村透谷らと『文学界』を創刊したことでも有名。東京高師卒業後、同校付属中・高校の教師となる。オックスフォード大学留学後は、複数の大学の教壇にも立つ。サッカレーの『虚栄の市』をはじめとして、ハーディ、キップリング、イエーツなどの翻訳がある。



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