ふみくら:早稲田大学図書館報No.64(2000.4.15)p7

「今井卓爾文庫」設置について

松下 眞也(図書課長)
 中央図書館図書課では、このほど、本学名誉教授・故今井卓爾先生収集の日本近代詩歌書コレクション総計約1,070点の整理をほぼ終え、これを「今井卓爾文庫」と名づけることとした。
 今井卓爾先生は明治42年(1909)、長野県諏訪郡平野村に生まれ、早稲田第二高等学院を経て昭和8年、早稲田大学文学部国文学専攻を卒業、兵役ののち、昭和29年より母校の教壇に立ち、平安時代の文学を講じられた。昭和54年定年退職後も旺盛に研究を続けられ、平成9年(1997)他界されるまで、『平安朝日記の研究』『源氏物語批評史の研究』『古代文芸思想史の研究』『物語文学史の研究』などの著書をはじめとして、数多くの研究業績をのこされた。
 平安朝日記文学の泰斗として知られた今井先生は、専門のご研究のかたわら、明治大正の詩歌をこよなく愛され、早くから日本近代詩歌書の収集にいそしまれた。この貴重なコレクションは先生の没後、ご遺族や中野幸一教育学部教授はじめ関係者のご尽力の結果、早稲田大学図書館に入ることとなった。
 今井先生は生前、自らのコレクションについて、『明治大正詩歌書影手帖』(昭54 ,早稲田大学出版部)『近代詩歌書の表情』(平7 ,勉誠社)の二著を公にされている。そのなかでも随所に語られているが、先生は書物の造本や装丁になみなみならぬ関心を持たれ、詩歌書の「外装」を後世に伝えることの重要さを強調されている。

 書影の第一印象は、実用的なものでない限りまず外装に向けられるわけであり、享受者の目がまず注がれるのである。・・・(中略)・・・詩歌書は、あくまで発行当時の原姿によって享受し、考察しなければならない。」(「近代詩歌書の表情」まえがき)
 爾来、図書館においては、保存するのは書物本体に限られ、外函やカバーなどは捨て去ることが多かった。現在でも原則的にはそうである。これは管理上の理由もあってやむをえない面もあるのであるが、本「今井卓爾文庫」(文庫3A)に関しては、今井先生のお考えを生かし、すべて、装備(ラベル、天印ほか)を施さず、原装丁のまま保存する。番号は栞をはさむことで表示(洋書貴重書方式)、むろん外函、カバーなどもそのままとする。上記の趣旨に鑑み、すべて特別資料(貴重書)扱いとし、貴重書庫に保管する。
 文庫番号は、内容的に近い「衣笠詩文庫」と並べる意味から衣笠詩文庫と同じ「文庫3」とし、同文庫と区別するためAを頭につける。
 冊子目録(著者名目録、書名索引、装丁家・挿画家索引)を作成、3月末刊行した。目録作成は図書課の松下眞也、岩佐直人、本木洋子、山戸孝仁が担当した。北村透谷『楚囚之詩』、宮澤賢治『春と修羅』、與謝野鐵幹『片袖』、高橋新吉『ダダイスト新吉の詩』、堀口大学『月下の一群』、萩原朔太郎『月に吠える』『青猫』『猫町』といった稀覯書に触れるのは、得がたい経験であり、宮川曼魚『南京玉』のような、めずらしい本を手にとれるのも、図書館職員にとって幸せな機会といえる。本文庫設置と目録の刊行によって、今井先生の収集した資料が活用され、日本近代文学研究に裨益することを願ってやまない。
写真

 図書館ホームページへ
本ページの著作権、使用許諾条件、掲示責任者の表示
Copyright (C) Waseda University Library, 1999. All Rights Reserved.
First drafted April 24, 1999