No.34(1992.2.10)p 12


4年目を迎える遡及入力


藤原秀之
(和書データベース化事業室)


1.はじめに

1988年8月に、和書遡及入力に関するワーキンググループの報告書が提出されてから3年半近くが経過した。それから今日に至るまで、様々な試行錯誤をくり返しながらも、遡及事業は後半に突入して来ている。その間の事情は既に色々な機会に紹介してきたが(『ふみくら』No.19、25など)、本格的に入力を始めて約3年、戦後受入図書の遡及入力がほぼ完了した今、あらためてこれまでの経過と現状における課題、さらには今後の見通しなどについて述べてみたい。

2.これまでの経過

遡及事業に関しては過去2年間、毎年秋に本誌上においてその現状報告を行ってきた。1回目の特集は、入力開始後半年余でだされたもので、ここでは当時業の概要説明が中心になされた。今日でこそ、かなり広く知られるようになったこの事業も、そのころは果たしてそれがどのような方法で行われているのか、よく知られていない部分もあったためにそのような形になったわけだが、今読み返してみると担当者の中での期待や不安も同時にその中にあらわれている。

昨年秋の2回目の特集では、10万件以上の書誌作成の実績を背景に、その過程で新たに浮かび上がってきた問題点について言及している。折しも6月にJAPAN MARCの存在する1969年以後に受入れた図書についての入力を完了し、いよいよオリジナル入力中心へと対象が移っており、新たなヤマ場を迎えた時期であった。そして、それから1年余、日々入力・点検という業務を繰り返しんながらも遡及事業は着実に前進を続けてきたのである。

その間の変化で、まず第一にあげねばならないのは、環境の変化、即ち、新図書館への引越しであろう。今年4月に開館した新中央図書館への移転に際しては、各箇所とも大変な苦労があったようである。準備の段階から移転後の環境整備に至るまで、90年度はまさに引越しの年であった。そんな中で、当事業室は運び込むものが参考図書と入力中の図書、それに業務関連資料と若干の私物だけだったため、荷作り1日、引越1日の2日間で完了し、既に端末も設置されていたので翌日からはほぼ閉場通りに入力を開始できたのは有難かった。間もなく移転から1年を迎えるが、12-3号館時代から大きく変わったこととしては、書庫が近くなったということがまず最初にあげられる。紀伊国屋書店の担当者による毎朝の本運びも、その負担が多少は軽減されたのではなかろうか。また書誌作成の面でも、各種参考平常図書や事務用のカード類が身近になったことで、著者名の確認等の調査が大変やり易くなった。さらには、後述するように現行WINEへのデータのロードや現行WINEから遡及WINEへのロードが恒常的に行われるようになり、他箇所との連絡を今まで以上に密なものとしてゆく必要がでてきたことを考えると、陸の孤島からの解放は我々にとって意義深いものであったと言える。


この1年の間には、遡及WINEのシステムそのものにもかなり大きな点での改良がなされた。第一に、書誌作成の際の打出シートに所蔵データが付与されるようになったことがあげられる。従来画面でしか確認できなかった情報だけに、データシート上でチェックできるようになったのはうれしい。さらに大きな改良点としては、オンラインによるエラーチェックの機能があげられる。従来、書誌や所蔵データ上の誤りは、点検の際に各項目をチェックするのに加え、定期的にエラーリストとして一覧できるものを打ち出してもらうしかなかった。しかし、今回の改良で、コードの選択ミスや分類(NDC8版)のつけ忘れ等の機械的に判断が可能な部分については、書誌作成時のデータシートに直接エラー箇所が指示されるようになったので、以前に比して単純なケアレスミスはほとんどみられなくなった。だが、これで入力や点検が楽になったわけでは決してない。なぜなら、オンラインチェックにかかるのはあくまで形式的なエラーだけだからである。その機能が不可されたからには、我々は、今まで以上に充実した書誌データの作成、具体的には、著者名や個人件名の典拠の確認、的確な分類・件名の付与といった書誌の内容そのものの向上を要求されるようになったわけで、一層気を引き締めてかからなくてはなるまい。

以上のような変化のあった遡及WINEに11月から新いデータ群が仲間入りした。現行WINEからの書誌のロードがはじまったのである。これまで遡及WINEには、書誌プールも含めて、JAPAN MARCは1990年分までしか入っておらず、それ以降のデータの充実のために計画されていたものがついに実現されたのである。すでに今年の4月以降に国内図書課で入力、点検されたもののうち3,714件(遡及WINEでの所蔵数・11月30日現在)がロードされている。ただ、遡及から現行げのロードの際と同様、こちらも多くの問題点が残っている。そもそも、1冊1冊の図書について分割記入で書誌を作っている遡及WINEに対して、現行WINEでは多段階の書誌を作成している。この両者の間でデータのやりとりをするのだから、そう簡単にゆくものではない。それでも遡及→現行については、過去3回のロードを通してかなり安定した形で行われるようになってきた。しかし、現行→遡及のロードはまだ件数も少なく、始まったばかりである。これからロードの回数を増やして行く中で1つ1つ問題をとり除いてゆくほかに道はない。

こうして振り返ってみると、いろいろなことのあった1年だった。その中で、一部の入力対象外図書を除いて戦後受入分の入力が間もなく終ろうとしている。この間には、当初の予定になかった一般図書4万冊の整理・装備も含まれており、それらを考え合わせると、入力担当者を始めとして、事業室全員一丸となってよくやってきたものだと感じている。具体的な数字としては、作年の特集号の出た10月末から今年の11月末までに、所蔵数にして116、109件の増加をみている。これはオリジナル入力での書誌作成がほとんどの中で大きな成果だと自負するところである。

3.今後の予定

92年、遡及事業は新たな局面を迎える。大正から戦前に受入れた図書の遡及が始まるのである。予定では12万冊あるとされるそれらについては、今まで以上にオリジナル入力が主流となるであろう。その中に著者名や個人名などを中心にわかりづらい点が多いに違いない。加えて従来通り現行WINEやJAPAN MARCとのデータの整合性を考えなくてはならない。大変な作業ではあるが今まで培ってきた経験を生かしながら、より良質のデータをより早く提供できるよう心がけてゆきたいと思う。

92年にはまた、入力対象とした図書のうち、年鑑、白書などの逐次刊行物の入力も学術情報課が中心となって進められることになっている。さらに大正期までの入力の後には、各文庫の洋装本約3万冊の入力が待っている。それらが終了した時、遡及事業はまた一歩完成へと近付くことになろう。

4.まとめ

事業室開設から3年、多くの人々がこの事業に関わってきた。去る人もいれば新しく入ってくる人もいる。しかし、1人1人の思うところは遡及入力の完成という点で一致している。そして今日もその目標に向って我々の業務は続けられるのである。

(1991.12.26記)




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