No.33(1991.12.5)p18-19



●「早稲田文学」創刊100年記念●

「早稲田と文学の一世紀」展報告

同展準備委員会


 このほど、図書館の主催により、「早稲田文学」の創刊100年を記念し、近代文学一世紀の流れを回顧する展覧会が開催された。これは内容的には一昨年の「ワセダと現代の作家たち」展につながるものである。同展終了直後から実行委員会が発足し、図書館の新館移転を間にはさみながら準備作業をつづけた。

 雑誌「早稲田文学」は文学科創設の翌年、明治24年(1881)10月20日の創刊である。創刊号の「凡例」に「編輯は坪内文学士専ら担当し饗庭篁村氏之を補助す」とある。和漢洋三文学の調和と校外教育の重要性を思って創刊するに至った経緯から、はじめは講義録風の内容で出発した。その後、島村抱月による「第2次」、谷崎精二を中心をした「第3次」、数回の中断を経て現在の「第8次」に至るまで、日本の近代文学に少なからぬ影響を与え続けている。

 以下に、実際の展示資料について紹介する。

 第1章 逍遥とその周辺
 いつも展示される逍遥と、早稲田大学図書館ならではの二葉亭の資料によって、二人の関係について焦点があてられた。また、北村透谷の石坂ミナ宛書簡(ラブレター)が人目を引いた。

 第2章 文学科創設と第一次「早稲田文学」
 地味な資料が多かったが、大西祝の留学先からの絵ハガキ、後藤宙外の「友垣草紙」、『ありのすさび』の原稿、藤野古白と子規に関する資料、木下尚江の『信濃富国論』などの珍しい資料が並んだ。

 第3章 第二次「早稲田文学」と近代文学の成熟
「早稲田文学」編輯者時代の有馬御風のノート、永井荷風の『断腸亭日乗』、中村星湖の「少年行」原稿、近松秋江の原稿など、自然主義文学の牙城として多くの文学者を排出した第二次「早稲田文学」の時代を再現した。

 第4章 近代詩歌の豊饒
 稲門の詩人・歌人の多さに対して、スペースが少なく、思うように飾れなかったうらみがあるが、空穂、白秋、牧水、勇、露風、八一、夢二、一穂、蛇笏、山頭火などの貴重資料が展示された。

 第5章 早稲田と演劇
演劇博物館の資料を中心として、逍遥、抱月の原稿、沢田正二郎の絶筆、三好十郎、真船豊らの資料など「演劇の早稲田」ならではの資料が人々の目を楽しませた。

 第6章 児童文学の群像
 野口雨情の原稿、浜田広介、秋田雨雀の色紙、坪田譲治と「びわの実学校」を中心に、かわいらしい装幀の本が彩りを添えた。

 第7章 プロレタリア文学・大衆文学
 黒島伝治の『武装せる市街』伏字本、江戸川乱歩の「貼雑年譜」の現物、海野十三の「空襲都日記」などが注目された。
 第8章 大正から昭和へ
 今和次郎のフィールドノート、『今井兼次絵日誌』、更に、昭和文学を担う人々の登場の場として当時数多く出版された同人誌が展示された。

 第9章 第三次「早稲田文学」と昭和の作家たち
60人を超える昭和の作家たちの大群像となった。横光利一、井伏鱒二の原稿をはじめとして、尾崎一雄、火野葦平、牧野信一、田畑修一郎、田中英光らの貴重な生資料が展示された。

 第10章 現代文学と早稲田 
 約200人の現代作家について、館蔵の本間文庫、衣笠詩文庫や「稲門ライブラリー」をはじめ、学内外各方面からの借用も含めた資料を展示した。資料の借用を快諾下さった諸機関や御遺族の方々のあたたかいご協力は本当にうれしかった。

 しかし、そのため展示総数は約2,000点にのぼり、「早稲田大学」100年の大きな歴史に対して、いかにも会場が狭く、密度が濃いとはいえ、観る方とすればいささか疲れる展覧会となったようだ

 このほかに『わが青春の町・早稲田』と題して、明治、大正の文学青年と早稲田界隈の写真や、作家・立松和平氏の在学当時の下宿部屋の再現といった企画展示も行われた。

 オープニングには、小山総長、安藤理事や後援の朝日新聞、会場を提供した西武百貨店の関係者のほか、岡上鈴江氏(小川未明)、堀内留女氏(稲垣達郎)、坪田理基男氏(坪田譲治)、山内緑氏(山内義雄)、平井隆太郎氏(江戸川乱歩)、安藤隆造氏(湯浅芳子)ら御遺族の御臨席を賜った。また、八木義徳氏、村松定孝氏、西川満氏、荒川洋治氏らの作家の方々もご来場された。

 全体としての入場者数は、先の「大隈重信展」「ワセダと現代の作家たち展」に比べて若干少なかった。広報活動は、10月6日のNHK衛星第2放送の『週間ブックレビュー』で取り上げられたほか、初日の夕方NHKのニュースでも放送された。ただ、会期中ずっと、台風の影響もあり、終始秋の長雨にたたられたことが、入場者数にかなりの影響を与えたと思われる。また今回は、図書館主催の展覧会としてはじめて、入場料を取ることになった。(但し、早稲田大学関係者及び中学生以下は無料)これは、興味を持つ人にゆっくり観覧していただけるようにという配慮からである。立ち止まって熱心にケースの中に見入る来場者が多く、示唆に富む指摘や質問を受けた。




会場 西武百貨店池袋店 7階
会場 平成3年10月9日(水)〜10月14日(月)
主催 早稲田大学図書館
後援 朝日新聞社
実行委員会
  委員長 野口洋二(図書館長・文学部教授)
      江中直紀(文学部教授)
      奥島孝康(法学部教授)
      紅野敏郎(教育学部教授)
      佐々木幸綱(政経学部教授)
      竹盛天雄(文学部教授)
      中島国彦(文学部教授)
      原 子朗(政経学部教授)
      平岡篤頼(文学部教授)
関連事業
 図録刊行「早稲田と文学の一世紀」
(A4変形型、200ページ 2,800円)
記念講演
 10月12日(土) 各回入替制
・午前11時〜正午
 橋田寿賀子氏『ドラマの中の女たち』
<インタビュアー:林京平氏(演劇評論家)>
・午後1時〜2時
 竹西寛子氏『井伏鱒二と正宗白鳥』
・午後2時30分〜3時30分
 高井有一氏『立原正秋との交遊』
入場者数4,178名 図録売上冊数 592冊



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