ふみくら:早稲田大学図書館報No.33(1991.1.25) p.14

[図書館資料案内]世界の新聞(2)

イギリス・アメリカの新聞

ふみくら編集委員会

はじめに
 今回は、中央図書館が現在受け入れているアメリカとイギリスの新聞の紹介です。

l.所蔵状況
 [表l]に、その主だった4紙をまとめてみました。
 タイム紙は、その古い号を、マイクロ資料の形態で、漸次迫加購人しています。
 ニューヨーク・タイムス紙は、本年より原紙の購入がはじまりました。またマイクロ資料の形態で、創刊号より現代政治経済研究所(4号館6階)で閲覧できます。
 ワシントン・ポスト紙も、一昨年から原紙でも受け入れられるようになりました。
 4紙とも原紙の保存はl年間で、そのマイクロ保存分の新間資料は、3階雑誌課にて閲覧できます。

2.各紙について
 各紙ともに、近代新聞の先進国において、輝かしい伝統を誇る新聞です。ここでは、磯部祐一氏の著による『アメリカ新聞物語』(ジャパンタイムス社昭59.4)、『イギリス新聞物語』(ジャパンタイムス社昭49.2)、および『世界の新聞雑誌ガイド』(日本貿易振興会 昭54.ll)を全面的に参照し、各紙の簡略なあらましを探ってみることにしましょう。

(1)イギリスの新聞
 イギリス(United Kingdom)の新聞は、まず全国紙と地方紙に大きく分けられます。地方紙は、都市ごと、地方ごとに数多く存在しています。
 全国紙は、朝刊全国紙(日刊)〜高級紙と大衆紙に分けられる〜、タ刊紙、そして日曜新聞全国紙に大別されます。
 中央図書館は、高級紙の代表であるThe Timesと、日曜新聞全国紙のひとつ、The Observerを受け入れています。
1.The Times
[創刊]
 1785年l月l日、ジョン・ウォルター(John Walter)により、デイリー・ユニバーサル・レジスター(The Daily Universal Register)の名称で創刊されました。1788年、ザ・タイムス(The Times)に改名、ウォルターの息子、ジョン・ウォルター2世により、その基が築かれました。
[概要]
 通常の記事の配列は、国内ニュース、ヨーロッパのニュース、海外ニュース、議会関係、芸能・スポーツ、文化面、読者欄、経済・ビジネス関係となっています。
 労資紛争のため、1978年11月より約l年間休刊していましたが、1979年ll月13日より復刊しました。
 他に「別冊紙」として、
 〇Educational Supplement
 〇Higher Educational Supplement
 〇Literary Supplement
 〇Saturday Review
 〇Business
などがあり(いずれも週刊)、中央図書館でも受け入れられています。
 イギリスの高級新聞紙で「冷静で、格調高く、洗練された、公正な記事」という評価をうけています。このような名声を得た背景には、歴代の編集者の努力、特に1952年から1967年まで、同紙の主筆となった、ヘーレー(Sir William Haler)の功績(外国関係ニュース報道の質改善など)によるところが大きいといいます。

2.The Observer
[創刊]
 1791年。
[概要]
 日曜紙全国新聞紙。記事内容は、国際ニュース、国際的評論、書評、演劇、音楽、美術評論、スポーツなど広範囲にわたります。
(2)アメリカの新聞
 アメリカの新聞は、その歴史の中で
一、思想を発表する白由の権利
ニ、真相を報道する権利
三、政治的な、または経済的専横者の手にある、
  威圧的な検閲から解放される権利
という三つの権利を伝統としてきました。
 その伝統を体現してきた代表選手が、ニューヨク・タイムス紙であり、ワシントン・ポスト紙です。
1.The New York Times
[創刊]
 1851年9月l8日、ヘンリー・レイモンドと銀行家ジョージ・ジョーンズが設立した、レイモンド・ジョーンズ会社より発刊された、" New York Daily Times"紙が、NYタイムス紙のはじまりです。
 1857年からその題字から、Dailyを取り去り、" New York Times"となりました。
[概要]
 日刊全国紙(朝刊・日曜版)。発行地はニューヨーク。平日版は、A(国内政治・国際情勢)、B(ニューヨーク情報)、C(科学・文化・芸能・娯楽・スポーツ・家庭欄)、D(金融・ビジネス情報)の四つのセクションからなります。
[別冊紙]として、
 〇Book Review
 〇Education Life
 〇Today's Home
などがあり(いずれも週刊)、中央図書館でも受け入れられています。
[附話]
 NYタイムス紙の歴史において、重大事件をあげろといえば、二つの事件が何をおいてもあげられるでしょう。すなわち、「ツウィード・リング(Tweed Ring)事件」と、ベトナム秘密文書の特集です。
 ツウィード事件は、1857年から1871年にかけて、ニューヨーク市政を牛耳り、公益上の利権を売り物にして、私財を肥やした、William Marcy Tweedを、記事に、社説に、漫画にとヤリ玉にあげ、ついに、市政から迫放した事件です。
 ふたつめのベトナム秘密文書特集事件とは、ベトナム戦争のさなか、NYタイムス紙が、1971年6月13日から始めた、米国国防総省の対ベトナム戦略に関する暴露記事連載に対し、米政府が国家の利益を害するものとして、米最高裁の審理にかけたことです。NYタイムス紙は、これにより一時掲載中止の処分をうけましたが、結果は、新間掲載の権利と義務を主張したNYタイムス紙の勝利でした。
 また、この事件に際して、NYタイムス紙が掲載中止させられてすぐ、こんどはワシントン・ポスト紙がバトンを引き継いで掲載を開始したという、素晴らしい連携プレーは、現在でも語り草になっています。
 NYタイムス紙は、記事の豊富さ、特に外国報道において、最も信用をうけており、その報道量は、他紙よりはるかに抜きんでるという、伝統的な新聞政策を堅持しているといいます。
 重要とあらば、演説の草稿・委員会報告など全文掲載する、堅実無比、重厚な、まさに「記録の新聞」です。
2.The Washington Post
[創刊]
1877年。
[概要]
 日刊紙(朝刊・日曜版)。首都ワシントンを中心に読者層を有す。平日版は、A(政治・社説)、B(娯楽・家庭欄)、C(三行広告・社会面)、D(経済・スポーツ関係)の4セクションからなります。
 他に、週刊の「別冊紙」として、
 〇Washington Business
 〇Washington Home
 〇Health(A weekly Journal of Medicine)
 〇Weekend
などがあります。
[附話]
 ホワイトハウス、議会関係の報道に詳しく、米国政府、議会の動きをフォローする上で有用な新聞です。
 同紙の編集主幹を26年問勤め、ウォーターゲート事件の調査報道などで一時代を築いたベンジャミン・ブラッドリー氏が、副社長に就任した際、「最後のゴッドファーザー編集長」の引退として話題を呼ぴました。その彼に対する日本の読売新聞のインタビュー(『読売新聞』1991.9.23付朝刊)の冒頭、記者の「w.ポストと言えば、何よりもニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート調査報道が頭にうかぶ」との質間に、
ブラッドリー氏は、
「だが、ポスト紙と私たちにとって重大な転換点は、71年6月17日、あの国防総省秘密報告の掲載を決定した日だった。」
と答え、またその時の状況をこう答えています。
「何しろ、米政府がまず民事訴訟、次に刑事訴訟でわれわれを取り押さえようとねらっていた。国家機密を暴露し、国の安全を脅かす「重罪」を犯したと判定されたら、もうポスト社が計画していたテレビ局の認可もうけられなくなり、何億ドルもの損失になる。・・・本当に死活的決断だった。」
ベトナム戦争時の、当事者の緊張感がひしひしと伝わってくるものがあります。

 結びにかえて
 今回の記事を作成するにあたり、次の図書を参考にしました。アメリカ・イギリスの新聞について出版状況、所蔵状況を調査されたい方は、ご参照してください。[中央図書館2階参考図書コーナー]
〇 World Press Encyclopedia.Vol.1.2 G.T.kurianedit.
(Mansell.London l982)R 070
〇The Encyclopedia of American Journalism.Donald Paneth
(Facts on File.New York l983)R 070 [l階研究書庫コーナー]
○内野茂樹『アメリカ新間の生成過程』(弘文堂昭35.10)イ8-503
○ジョン・ホーヘンバーグ著、天野景司訳「ピューリッツア賞物語』
(産業能率短期大学出版部 昭45.10) イ8-497
○機部祐一郎『イギリス新聞物語』(ジャパンタイムス昭49.2)イ8-503
○機部祐一郎『イギリス新間史』(ジャパンタイムズ昭59.4)イ8-670
○機部祐一郎『アメリカ新聞史』(ジャパンタイムス昭59.4)イ8-671

[2階一般図書コーナー]
○ロバート・グリーンマン著、佐藤喬訳『「ニューユーク・タイムス」を読む辞典』
(講談社1990.4)833-ク


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