No.32(1991.10.25)p6‐7


カリフォルニア大学図書館と天理図書館が
本事業へ参加したことについて




山  本  信  男                           
(明治期資料マイクロ化事業室担当調査役) 


まえがき

    明治期資料マイクロ化事業の目的は、明治時代に刊行された図書資料すべてをマイクロ化し、次代の人達のために残すことである。よく知られているように、明治時代に作られた資料の多くは、酸性紙で出来ており、時間の経過とともに劣化し、いずれは滅失してしまう運命にある。このような状況にある明治期の資料類を、印刷媒体を紙からフィルムにかえて内容を保存し、次の世代の人達も見ることができるようにすることが本事業の第一の目的である。

    第二の目的は、明治期資料の集大成である。明治時代に出版された資料の総数は、現在のところ不明である。国立国会図書館をはじめいくつかの大図書館には多くの明治期資料が所蔵されている。しかし、現在のところ単館ですべての明治期資料を網羅している図書館はない。したがって、わが国および外国の図書館等で明治期資料を収蔵している関係機関が協力しなければ、明治期資料の集大成は実現不可能である。本学が魁となって、現代および次代の人達のために明治期資料の集大成をするのが、本事業のもう一つの目的なのである。

    今回、アメリカのカリフォルニア大学図書館と関西の天理図書館が本事業に参加することになった。このプロジェクトにとって極めて意義深いことである。以下、両図書館の所蔵資料の特徴および本事業に占める意味について、簡単にふれてみたい。


カリフォルニア大学図書館所蔵明治期資料について

    カリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館は、多くの明治期資料をもっている。その中核は、わが国でもその名を知られている村上文庫および三井文庫である。第二次世界大戦後、同校がアメリカにおける日本研究の促進と充実を図るために収集したものである。この特徴ある2つの文庫を加えることによって、同図書館は、現在明治研究のための資料としては全米一の量と質を誇っている。同校が所蔵している明治期資料は、大体次のような3つの部分から成っている。

1 旧村上文庫 約 7,400タイトル
2 旧三井文庫で今まで未整理だったが、
ここ数年アメリカ政府の援助によって目録を整備したもの
約 4,000タイトル
3 既に整理された蔵書の一部を構成しているもの
(その多くは旧三井文庫本である)
約 2,100タイトル

    すなわち、合計13,500タイトルの明治期資料を収蔵している。これらの資料のうち、現在世間に知られているのは、上記「3」の2,100タイトルだけである(G.K.Hall 社発行の同図書館所蔵目録に掲載されている)。

    近代日本文学の宝庫として知られている村上文庫は、まだ世間一般には知られていないのである。村上文庫には、夏目漱石の「坊ちゃん」をはじめ明治時代の代表的文学作品の初版本等が網羅されている。その道の研究者から幻の文庫といわれ、長い間その公開が待ち望まれていたものである。なお、村上文庫および三井文庫がアメリカに渡った経緯と両文庫の概要について、カリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館長のシャイブリー博士が、1991年8月1日、ホテル・グランドバレスで講演された。講演内容については、早稲田大学図書館紀要に発表されることになっている。今回、カリフォルニア大学バークレー校が本事業の趣旨に賛同され、未知の文献の宝庫である村上文庫を、マイクロフィッシュの形で一般に公開することに踏み切ったのは、まことに意義深いことである。これによって、日本および世界の何処にいても、幻の文庫といわれていた村上文庫を見ることができるようになった訳である。また、明治期文献の集大成という本事業の目的から見れば、これに勝る強い味方はないといえるであろう。


バークレー校から送られてきた
明治期本データシートの山
    本事業室では、カリフォルニア大学バークレー校東アジア図書館から送られてきた約13,500タイトルについて、本事業室が4年がかりで整備してきた明治期刊行物仮総合目録によって重複調査を行い、約2,500タイトルを抽出した。この作業は、約13,500タイトルの中から、大正期に出版されたと思われる資料および文学・言語関係資料外のものをまず除外し、残りのタイトルについて、上記仮総合目録によって重複状況を調べた。この仮総合目録には、早稲田大学図書館および演劇博物館、慶應義塾大学図書館、天理図書館、国立国会図書館等が所蔵している明治期刊行文学・言語関係資料が収録されている。したがって、この仮総合目録に見当たらないということは、前掲のようなわが国の主要な図書館には所蔵されていないことを示している。村上文庫および三井文庫の中には、現在日本国内には存在しないと思われる明治期資料が約2,500タイトルも含まれているのである。




天理図書館所蔵明治期資料について

    周知のように、天理図書館は、わが国のみならず世界でも有数の図書館として知られている。その理由は、蔵書の質的な高さにある。古代から現代にいたる内外の諸文献を網羅しており、各分野の研究者にとって垂涎の的となっている図書館である。

    明治期資料についても同じことが言えるであろう。所蔵数からみても日本有数であり、その内容は、極めて個性的である。天理図書館は、普通の研究図書館ではなく、天理教の研究および布教のための施設である。したがって、その蔵書内容は堅苦しいアカデミズムに凝り固まったものではなく、むしろ誰でが使える一般的な資料にその特徴があるといえる。例えば、現在では恐らく何処を探しても見当らないであろうと思われる明治時代の大衆読み物類が、蔵書の中に数多く含まれている。当時、床屋や髪結いなどで人々が読み耽った類のものである。保存されることもなく、多くは捨て去られてしまったものであろう。しかし、天理図書館は、これらの資料を丹念に収集し保存している。今となってみれば、これらの資料類は、明治時代に生きた一般大衆の生活や考え方を知るための貴重な文献である。

    天理図書館は、数多くの稀覯書を持っている世界有数の図書館であると同時に、それぞれの時代の本質を伝えるいわゆる通俗文献をも所蔵している個性的な図書館である。今回、天理図書館が本プロジェクトに全面的に参加して下さったことは、本事業の遂行にとって極めて喜ばしいことである。

天理図書館のフィッシュ



    なお、三井文庫がカリフォルニア大学に渡った経緯についての文献として次のものが参考になる。

Roger Sherman,"Acquisition of theMitsui Collection by East Asuatic Library,University of Califorjia, Ber-keley". CEAL Bulle-tin,No.67(1982)
Donald Shively,"Dr.E.Huff" CEAL Bulletin,No.79(1986)





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