No.27(1990.12.15)p 14

明治期資料を求めて(天理大学編)



加 藤 絢 子(明治期資料マイクロ化事業室)


    当事業室では、開室当初から各地の図書館とのネットワーク作りを目指してきた。明治時代に出版された本は、日本各地に分散して所蔵され、東京にある本は、その一部分に過ぎないのではないか。網羅的に集めるには、各地の図書館とネットワークを組み、各地域の代表的な図書館に拠点校になっていただいて、その地域の資料を集中させていく、という方式を考えてきた。関東地区については、慶応義塾大学をはじめ、多くの図書館の御協力をいただいて仕事を進めている。

    まず第一番に、明治時代になるまで江戸と共に文化の中心であった関西地区の図書館に仲間になっていただきたいと考えた。京都大学図書館、関西大学図書館、天理図書館、府立中之島図書館等々、お願いしたい図書館は多々あるが、その中でもユニークな収集をしておられる天理図書館に、第一番に協力いただきたいということで、1989年11月、天理図書館をお訪ねした。前々からの濱田先生のお力添えもあって、お訪ねしたその日に、天理図書館所蔵の明治期資料、文学、言語の部、約4500冊分のリストを出して下さった。書名カードを分類順に並べてコピーしたもので、大変手間のかかる作業をして下さったこと、感謝のほかはない。天理図書館の遠藤氏は「相互協力ということはしたことが無いし、またその必要はありません。明治の本は、あまり所蔵していませんが、お話は分かりましたので、使えるものがどの位あるのか調査した上で協力したい。」と言って下さった。

    その晩、関西大学図書館の大国、仲井両氏にお目にかかり、関西大学では、関西地域出身の作家の作品、関西地域を扱った作品を現在収集中であり、程無くその目録も出るというお話を聞かせていただいた。時期も明治初年からのものを集めておられるとのことで、この事業への御協力をお願いして、楽しい一時を過ごした。

    天理図書館から借用したリストをカード化し、早大本との重複調査を行った結果、全体約4500冊のうち、早大に所蔵していない資料1622点、異版のあるもの240点となった。この点数はあくまでカード枚数を数えたものなので、上下本、あるいは多卷のものも相当量あるので実際の冊数はもっと多くなる。それにしても40%程を使用させていただくことになると思われる。当プロジェクトのやり方では異版のあるものは、本を付き合わせる。内容に変更のあるものは別の本と考えて全ページ撮影し、内容に異同の無いものは、タイトルページと奥付以降のページを撮っている。何版まで出版されたのか知るためと、当時の広告を撮っておくことによって、多くの事柄を知ることができるためである。天理本中の異版本240冊の付合わせ調査は、どのようにして行えば良いのだろう。早大本を天理図書館に送り込み出張して行うのかまたは全点、異同の有無にかかわらず撮影してしまって、あとから早大本とフィルムを見ながら比べてみるのが良いのかと、思案中である。なお天理図書館の場合、図書館外への持出しは許可にならない。今行っている撮影方法(マイクロフィッシュへの直接撮影)でマイクロ化してゆきたいと考えたので、天理図書館との話し合いの中で、大きな機械ではあるがフィッシュの撮影機を図書館内に据え付けさせていただこうと、場所の検討をお願いしてきたが、残念ながら許可されず、16mmロールフィルムで撮影し、その後フィッシュに転換するという方式を採らざるを得なくなった。工程が倍になるためにフィッシュの制度が落ちることと、製作コストが高くなってしまうことは大変残念なことである。しかし、さまざまな事情をかかえた図書館と一緒になって、明治を残してゆこうとする時、フィルムの品質を論ずるよりも集大成して、より多くの資料を残してゆくことがより大切なことであると考え、今回はじめて16mmロールフィルムからロールフィッシュへ転換するという撮影方法で、天理本をマイクロ化してゆくことになった。おそらく1991年早々にはスタートできるのではないかと期待している。

    天理図書館のカードを見せていただいて気づいた特徴を少し記してみたい。天理図書館は個々の文学者の作品を網羅的に収集している。例えば、夏目漱石、尾崎紅葉、黒岩涙香、村上浪六、泉鏡花、福地桜痴、川上眉山等々の初版の単行本を網羅的に収集し「〜著作集」として一括し、特別本として扱っている。全て、原装、美本で帙に入れ大切に保管しているが紙や綴じはかなり劣化がはげしく紙質もしなやかでない。泉鏡花、黒岩涙香は共に三田文学ライブラリー本で収録した作家であるが、そこに無かったものが天理本で追加できる。マイクロフィッシュナンバー1851の「人外境」(黒岩涙香訳 扶桑堂 明治30年刊)についても、三田本の中には上、下巻しかなく、探していたところ、天理図書館に中巻が見つかった。なお、同資料は国会図書館にも上巻だけしか所蔵していない。この度早大本との重複を調べると共に、国会図書館蔵本ともチェックをしてみた。早大と国会本とは所蔵している資料が大変よく似ていて、早大に所蔵していない本は国会にも無い場合が多く、明治期本の分布にはかたよりがあり、関東地方と関西地方では所蔵している本はかなり違いがあるのではないかと思われる。

    天理図書館ではまた、イソップ物語、講談本、立川文庫等も徹底して集められている。今回は文学、言語についてだけの調査であるが、宗教に関するものは、カードケースも別にしてあり、宗教分野にまでマイクロ化が進んでゆく時には、とても興味深い結果が得られることと期待している。宗教書といえば東北学院大学はキリスト教関係書を収集しておられ、事業開始時にお訪ねして御協力をお願いしてある。

    上記の立川文庫であるが、遠藤氏にお聞きすると、ほぼ全点所蔵しておられるとのことである。明治末から大正にかけて、大阪の立川文明堂が出版し、当時の少年達が胸をおどらせて読んだであろう本がここに集められていた。これだけの量を集めておられる図書館はまず外には無いだろう。廉価でハンディで多くの人々が読み、そのために消耗品のように消えていってしまう本だけに、紙質が悪く、劣化はかなり進んでいる。明治時代に出たものは4〜5冊程度であるが、明治期の出版物だけをマイクロ化するとのんきに言っていられる状態ではないように思う。明治期に出版され始めた継続出版物ということで、全点をいっきにマイクロ化するようお願いしたいと思っている。天理所蔵本は当然のことながら、大阪、京都と関西圏の出版物も多く含んでおり、関東地域にまで流布しなかった図書が相当数あることが確認された。次の機会には関西大学収集の関西圏出版の文学書を見せていただくのが楽しみである。



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