No.27(1990.12.15)p 8

三田文学ライブラリーのマイクロフィルム化


風間茂彦(慶應義塾大学三田情報センター閲覧課)


    「三田文学」といえば、自然主義の「早稲田文学」や反自然主義の「白樺」と並ぶ文芸雑誌であり、そこから久保田万太郎、水上滝太郎、佐藤春夫、堀口大学をはじめ多くの三田出身の文学者を輩出している。「三田文学ライブラリー」とは、そうした慶應義塾にゆかりのある文筆家の著作をはじめとして書簡・日記・原稿・研究書などを蒐集することを目的に昭和41年に発足した特殊文庫である。もちろん慶應義塾大学図書館でもこれらの著作を、その収集方針の範囲内で収集しているが、保存を目的に初版本を原形のまま収集・保存するといったことが、このライブラリーを特徴づけている。なかでも久保田万太郎および泉鏡花に関してのコレクションは充実しているとされている。

    さて早稲田大学図書館が「明治期刊行物集成マイクロフィルム版」を刊行中であることは広く知られていることであるが、その第一期「文学・言語編」の刊行にあたり、当ライブラリーの蔵書の一部を借用・利用して頂けたのも、このような特徴ゆえのことであると言えよう。結局、馬場孤蝶、泉鏡花、久保田万太郎、黒岩涙香、前田越嶺、森鴎外、森田思軒、永井荷風、野口米次郎、岡鬼太郎、小山内薫、戸川秋骨、上田敏、矢野龍渓等155点、171冊を提供させていただいた。当初早稲田側からの要望に沿って慶応義塾大学図書館の蔵書をあたったが、結局保存状態等の理由で、この「三田ライブラリー」に白羽の矢がたったというわけである。

    この早稲田大学図書館のマイクロ化事業の他にも、同種の計画としては国立国会図書館所蔵の明治期刊行物のマイクロ化事業も現在進行中である。いずれも十数万冊を対象とした大事業であり、この両プロジェクトが、明治期の和書の国家的資料保存に大きく貢献するであろうことは明らかである、早稲田大学図書館の調査によると、その所蔵和書のうち、とりわけ1880年代から1900年代にかけて出版された図書の用紙劣化が、1940年代のものと並んでかなり進んでいるという報告がなされている。同様の結果は、慶應義塾大学図書館の調査でも報告されている。このような結果を一般化して考えたとき、とりわけ今回のプロジェクトの意義は大きなものになるに違いない。

    現存資料のマイクロ化には様々な意義があるが、一般に言われていることは@保管スペースの節約A資料保存対策B複製配布による資料提供である。とりわけAに関しては、用紙劣化資料に対しての実用的且つ安全な他の方策が開発されていない現在、このようなマイクロ化は、資料保存対策として、最も有効な方法となっている。しかしこの方法といえども資料の原形を保存することまではできない。保存される実態は、あくまでもその内容にとどまる。資料というもの、必ずしも原形保存すべきものが全てでないことを承知した上で、あえて誤解を恐れずに言えば、原形保存すべき資料に対しては、マイクロ化のような形で利用のために内容を保存する一方、原形保存のための機能を並行して準備するべきであろう。そのような意味で、限定した機能であるとはいえ「三田文学ライブラリー」の保存機能は成立しているのである。早稲田大学にも「稲門ライブラリー」の構想があると聞くが、大規模なマイクロ化と並行しての「完全原形保存」のライブラリー計画、新図書館計画と並んで、さすが早稲田である。

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