No.27(1990.12.15)p 4

JMSTCプロジェクトに参加して



石松久幸(カリフォルニア大学バークレー校図書館)



    カリフォルニア大学バークレー校の東アジア図書館では一昨年、アメリカ教育省からの特別予算援助を受けて約6100タイトルの旧三井文庫蔵の明治期刊行物の整理目録補修作業を行いました。これは一年間のプロジェクトで日本から慶応、立教、国会、大阪府中之島などの図書館から人材派遣の協力を得、合計11人のスタッフで無事作業を終えることができました。それとほぼ同時にかねてから目録作業を行っていた旧村上浜吉氏蔵の明治文学書、通称村上文庫、約7400タイトルの整理作業も終了しました。合計1万3500タイトルの、明治期刊行物の目録作業が完了したことになります。これは膨大な量で、おそらく日本国外では最大の明治期刊行物コレクションではないかと思っています。

    去年の春の訪日の折、ふらりと早稲田大学の図書館へ遊びに行きますと、山本信男さんが待ち構えていて明治期資料マイクロ化プロジェクトのお話をして下さいました。太平洋を隔てて日米で同じような資料に着目してそれぞれ別個にプロジェクトを進めていたのです。山本さんは非常に熱心にプロジェクトの意義を私に説明してくれました。山本さんにはお子さんがいらっしゃるようですがこうおっしゃるのです「私の子供の世代に、なんとしても明治のすばらしい文化を伝えてやりたい」と。そしてそれは「図書館員として生きた私の次代に残してやらなければならない義務だ」ともおっしゃったのです。私はそのころはまだ子供もいませんでしたし、日常の雑務に追われてそんな崇高なことなど考えたこともなかったのですが、ビールのお代わりをするごとにますます熱心に、なかば泣きそうな顔になって「バークレーも参加してほしい」と繰り返す山本さんの情熱に強く打たれたのはたしかでした。

    バークレーに帰ってから私は私なりに考え、人にも相談し出来ることなら参加したいものと思っていましたが、なにしろ不景気そのものといったアメリカの大学では財政的に恵まれている日本の大学のようにはいきません。外部からの援助を受けなければプロジェクトの実施に必要な人材を確保することもできません。第一、現在の緊縮財政下では日常の業務をこなすことも満足にいかないのが現状なのです。極端な人員削減計画でスタッフが引退したり辞めていきますともうそのポジションは凍結され、空席を埋めるなどということは考えられないのです。「肩たたき」もシステムワイドの政策として真剣に検討されているといった状態です。ですから西原前総長がバークレーにいらしたときも私は新館建築や図書館のオートメーション化の話を羨ましさを通り越したような気持ちでお聞きしていたのです。

    しかし、出来ないといって、あきらめていては何事も出来ないのでしょう。苦しくても挑戦してみると意外といいアイディアが浮かび、そこから道が開けてくるということはよくあることのようです。幸い雄松堂の新田社長が私を追いかけるようにしてバークレーにおいでくださり熱っぽくバークレーの参加を呼び掛けて下さいました。慶応の渋川さんからもはげましのお言葉をいただきました。山本さんはじめ日本の方々は元気がよくて夢があり、これには私も大いに勇気づけられたような次第です。
 
    現在の予定では2〜3000タイトルをバークレーから提供してマイクロ化することになっています。バークレー本は保存状態がよく美本揃いですのでこれだけの多量のタイトル数を提供することになりました。「秘蔵」されていたこと、またお天気が良いことが本を傷めなかった理由です。

    バークレーが参加することによって明治期資料マイクロ化事業がさらに発展し、アメリカのみに限らず世界中の図書館がこのプロジェクトに参加してくれるよう願っております。



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