No.25(1990.10.15)p 10


遡及事業雑感

藤原秀之
(和書データベース化事業室)


私がこの遡及事業に参加することとなったのは今年の6月からである。それまでの1年間は、遡及とはいわば車の両輪の関係にある和漢書係に所属していたので、わずか2年の間に現在行われている和書整理の最先端を、まさにその現場で体験できるという幸運に恵まれたわけである。

しかし、同じ整理といっても、両者の間には様々な点において相違がある。

第一が対象とする資料の違いである。和漢書の場合は、日々新たに受け入れられる図書がその対象となるので、必然的に新刊書がその大部分を占めるのに対し、遡及の場合には、既に一度受け入れて整理を終えた図書がその対象となる。このことは書誌作成の際のMARCの利用という点からそれぞれ長短がある。まず新刊書、特に一般の流通本の場合、その多くが若干のタイムラグを置けば市販のMARCにデータがあるので、書誌データの作成が比較的スムーズに行われる。しかし、新鮮な情報の提供を第一に考えた時、このタイムラグは致命的なものになりかねない。そうなると市販のMARC化がなされる前の書誌を作る必要が生れ、その他のMARCに入ってこない書籍と共にオリジナルで書誌を作成しなくてはならないわけだが、この時、既存のデータが全く参考とならないような新しい分野の図書の場合、特に分野や件名を付与する際に悩むこともあるのではないだろうか。

一方遡及の場合、Japan MARC(J/M)仕様でのデータ作成が基本となっているので、その存在する期間、即ち1969年以降については十分にMARCの利用価値があったといえよう。しかし、この6月に69年以降の分が一応終了し、それ以前のものが遡及対象となると、それについてはほぼ全件がオリジナルでの書誌作成となるので、その労力はMARC存在部分とは比較にならないものがある。特に、戦前から戦後にかけての保存状態の悪い図書になると、奥付等がなくなってしまっているものも間々見受けられるようになった。そうなると、いくら現物主義といっても正確なデータの作成が困難になってしまう。そんな時に頼りになるのが、事務用カードや冊子体目録等、受入当時の状態を示す記録である。それらを利用しての書誌データ作成は、まさに蔵書の再整理といえよう。

相違の第2点は、人員数とそれに伴う整理方法である。遡及の場合、紀伊国屋書店からの25名程の入力担当者と図書館の4人の点検担当者が一斉に1つの分野の書誌作成に従事している。この方法の利点は、1つの分野を集中して行なうのでその分野に特有な内容に慣れることができるし、相互に情報を交換し、分類や件名等の統一を図ることが可能なため、データの整合性がとりやすい点にあるといえよう。このことは、効率のよい作業を行っていく上で不可欠なものとなっている。

和漢書係では、若干名のアルバイトと学職が入力を行い、7人の専任職員が入力と点検を行っている。しかし、専任の場合、他の日常業務との兼合いから、データ作成に専念するというのは不可能なことである。また、分野別に担当者が決まっているため、各人が各々の担当分野に精通することは可能かもしれないが、全体を通してのデータの統一をとることが極めて、困難であるといえよう両者のこの入力環境の相違には現在のところ如何ともしがたいものがある。

データの整合性という点では、遡及がJ/Mに基本的に準拠しているのに対し、現行WINEの中には、J/Mの他にTRC MARCや旧WINE時代の名残が混在しているため、そのことが特に後者においてはデータの整合性を欠く原因の一つとなっている。

以上のように様々な相違の存在する現行、遡及という2つのWINEで作成されたデータが、この8月、遡及から現行へのロードがはじまりいよいよ一つになった。しかし、著者名やタイトル、件名等のメンテナンス、また現在進行中のWINEの新しい入力基準との関係等、解決すべき問題が山積しており、真の意味で2つが1つになるにはまだ時間を必要とするであろう。そして、この遡及事業もこれからがその正念場といえるのかもしれない。



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