No.20(1989.11.10)p 2


荒木十畝画「富嶽」と「怒濤」について






「怒涛」


    古くから図書館を利用されている方や一部の館員は、これらの絵をあるいは懐しく思い出されるかもしれない。ともに幅2m近い大作で、「富嶽」は一時カウンターの後ろに飾ってあったが、強い風が吹くとガタガタ鳴って、落ちて来そうな気配だったという。

    「富嶽」は昭和12年の作。紙本墨画、136×191cm。十畝は『東洋画論』(小学館 昭和17年刊)で「東洋画の真の精神的なる所以は線そのものにある」と述べているが、この絵に見られる山稜の線は深く、自ずと余韻をたたえている。精神的な境地の高さと気品を感じさせる作品である。

    「怒」は紙本墨画、152×179cm。第3回新文展(昭和14年)出品作品。波と鳥とが互いに牽き合っている一瞬をとらえた作品である。鳥は大波から逃れようとしているのか。それとも戯れているのだろうか。ここにも作者の自在な精神のはたらきを感じとることができよう。

    この二点は昭和37年6月、商議員吉田秀人氏によって寄贈されたものである。当時の事務長佐久間和三郎氏は、絵画を閲覧室に飾ることで「読後の心を少しでも労うことが出来得れば」と回想されている(『早稲田大学図書館紀要』第30号)。

    現在は本庄分館に保管されているが、再び閲覧室の壁を飾る日が待たれる。

荒川十畝(明治5−昭和19年)は本名悌二郎。長崎県生。荒木實畝に師事し、養嗣子になる。東京女子高等師範学校教授。帝国芸術院会員。『十畝画選』(荒木いと編刊昭和38年刊)(チ4・4833)がある。






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