No.19(1989.9.1)p 15



作業を担当して―現場の声

当和書データベース化事業には、現在12-3号館2Fに常駐している早大専従者4名、紀伊国屋書店専従者3名、入力担当者他29名(1989.7.10現在)計36名が鋭意作業に当たっていますが、それ以外にも、学術情報システム課メンバー、ワーキンググループメンバー他、多くの人々によって支えられています。ここに、現場からの声として、入力データ点検担当の深井、システム的な面を受け持つ学術情報システム課斎藤、紀伊国屋書店担当課長藤則さん、入力者のまとめ役坂川さん、入力担当者を代表して井上さん、氏原さんの2人、計6人の声を集めました。



データベース ことはじめ

深井人詩
(和書データベース化事業室)

朝9時に出動すると事業室の若い男性たちが4〜5人で入力済みの本を、二階から運び出している。昨日整理したものを黄色のプラスチックケースに25冊位入れたもので書庫に返却する分である。

現場資料から直接入力する方針なので、図書館書庫から3泊4日の借り出しで、毎日4〜500冊、箱にして2〜30箱の搬出、搬入が続くわけである。

和書データベース事業室は図書館から100mばかり離れている建物の2階のフロアを全部使っている。入室して奥のコンピュータ端末機30台余にかこまれた自分の机につくと、今日点検する本を机の上に積む。昨日入力し、点検用に出力された書誌リストがはさまった本が、背後の書棚2連ほどぎっしり詰まっている。そこから机上に積むとき、分類点検でスピードが出るよう書名やラベルの請求記号で判断して、分類の同じものを集めて山積みする。こうしておくとNDCをあちこちめくらずにすみ、それだけ速さが増すわけである。和書当面52万冊の遡及再分類再目録作業の1日当たり目標は600冊である。作業過程のどこにしろ時間の短縮が図られなければならない。

点検リスト1枚のチェックポイントは、細かく数えれば、30〜40箇所になるが、点検は最重要事項である付与した分類と件名(NDC8版とNDLSH4版)の関係が妥当かどうかの検討からはじめる。そのため点検者としては、まず手に取った本の内容の把握に努める。先に処理判断した本の印象を一瞬に脳裏から消去することがこの仕事のコツである。

標題紙、目次、奥付と形通りに見て行けば、かなり正確な内容理解が得られるが、先を急いで形通りやらないと、かえって手間取ることになる。

NDC分類のポイントは旧蔵書の再整理だからといって今のところ特別なことがあるわけではない。新刊書整理と同じような問題に遭遇しているが、国立国会図書館のJ/Mができている昭和44年以降のものは、それを利用して作業の能率化を図る方針であり、分類も件名もコードなどでは国会の方法に従うことになる。

国立国会図書館の目録方針は一般的にはほぼ妥当な線であると判断できるだろう。しかし、当事業室で独自に作業を行っている以上、早稲田の判断や方針も取り入れて行きたいという気持もある。

将来のデータベースセンター化への夢もからめてその辺をどう調整して行くか、今後の課題であろう。

本式にJ/Mのない大正・明治本に着手するときにも運用上亀裂が生じない、柔軟性のある目録作りを目指したい。








「夢」が知らぬうちに

斎藤明
(学術情報システム課)

あれは確か昨年の4月か5月であったと記憶している。私の事務所にある白板に一つの「図」が描かれてあった。図の真中にはデータベースの絵があり、その周囲には各図書館からの端末。さらに一本のデータベースからの線の先に磁気テープが描かれ、そこには「A図書館・B図書館」といた文字が書かれていた。

その時は紀伊国屋書店の高井部長らと共に、ただ単に一つの「夢」を語っていたに過ぎない。今にして思えば、この時の白板の「図」が今回の事業実現の一つのきっかけであったことは確かなようである。

しかし、夢といっても発想自体はなにも難しいものではなかった。単純に「書誌情報などというものは、一つ質の良いものをどこかで作成し、それを皆で共有する」ということだけである。ただ遡及入力をオンライン環境で行うということが、当時の日本における遡及入力の作業形態と比較して少し違っていたかという程度である。

だがこれにしても何も珍しいことではない。洋書の遡及についてはすでにOCLCやUTLASを利用している図書館も多い。

発想自体はさほど珍しくはないのに、それでは何が夢なのか。それは日本の図書のオンライン遡及入力環境(データベース目録システム)を日本において作ることなのである。理論は良く理解していても、それを実行に移すためには、そのためのソフトウェアの開発、計算機資源、もちろんこれらの裏付けとなる費用。さらに人的資源、周囲の理解など、すべてのことがクリアされなければ実現しない。だから「夢」なのである。

さて、書誌の大データベースが出来上がるとその夢はまた広がる。今回の事業が将来的にどのような展開を見せるのか、現時点ではなかなか予測し難い。しかし、せめて夢だけでも見ていたい。考えてみればOCLCもUTLASもその出発は大学図書館であった。

今回の遡及入力計画が、夢から現実のものとなったのも、早稲田大学と紀伊国屋書店の決断の結果であったことは言うまでもないが、何よりも嬉しかったことは、現場の担当者の方をはじめとして、同じ夢を共有できた仲間が周囲に数多く存在していたことである。これからの道筋は険しいと思われるが、少なくとも個人的には、このような計画に少しでも参加できたことを心より喜んでいる。




現場からの報告
藤則幸男
(葛I伊国屋書店情報製作部和書データベース課長)

和書遡及事業の構想から実際の入力作業に移って早や5ヶ月が経過し、処理件数は今年2月から入力を開始して、6月までに約4万件になった。事業はスタートしたばかりであり、試行錯誤の毎日だったが、早稲田大学の専従者の方々をはじめ、多くの関係者の厚いご協力を得てここまでたどりつくことができた。

昨年早稲田大学とこの計画がまとまった後、我々現場の者にとって一番大きな課題であったのは入力担当者の採用と教育・研修だった。採用は最も心配されたが、予想以上の希望者を得て多くの意欲あるメンバーを集めることができた。全員が図書館の仕事に対し興味を持っており、最新のWINEシステムに自分の手で触れられる事、また大学の構内で仕事が出来る事、さらに何よりも新しい事業にチャレンジできるという開拓心の人を集めたといえる。

研修は入力事務室が決定するまでは整理一課と学術情報システム課で端末の研修をさせて戴いた。一番難しいとされた分類と件名は早稲田大学の方々に丁寧な講義・演習を授かった。遡及入力用の画面編集と入力基準を徐々に検討し、買揃えた多くのレファレンスの利用方法を詰めた。そして、それら一つ一つをドキュメント化し共通の知識としていった。最初は、入力基準の判断の違いなどで混乱を招いたこともあった。しかしそれも各自がさまざまな本を経験することで少しずつ判断ができるようになった。現在では入力担当者は26名になり、「本屋に入るとつい書誌階層を考えてしまう」「自宅で子供に本を読んできかせる時につい奥付を視察してしまう」という集団に成長した。

一方、こんな我々を辛抱強く支えていただいている早大専従者の方々も大変苦労された。その理由は第一に、目録に不慣れな我々のデータに適切な校正をし、統一性のある指針を出していただく事。第二に、30名近いメンバーが作成するデータの校正を4名で毎日こなしてゆかねばならない事である。本当にお世話になっている。

さて、当事者の特徴の現品からデータを作成することは大いに評価される事であろう。毎朝4〜500冊の本を図書館から入力事務室まで運搬専任の男子2名を中心に我々の手で直接運んでいる。そして、入力完了した本は元の本棚に並べかえている。

この新規事業に対する社内の意気込みも大変大きく、今年3月には我々の組織は一つの課に昇格した。新しい事業への挑戦だが、@早稲田大学の方々と出会いAWINEとの出会いB本との出会い、これらの出会いがこの事業の支えになっていると思う。入力担当者も自分達が作ったデータが永く残り、いろいろなところで利用されるとの信念で毎日端末機に向っている。今後とも早稲田大学の信頼を得られるよう、事業の成功を目指して課員一同全力でぶつかってゆく所存です。





われわれはWINEとともに成長す

坂川和彦
(葛I伊国屋書店情報制作部和書データベース課)

早稲田大学和書遡及データベース作成事業の特長は、@優れた図書館システムWINEを利用して、A1969年から1985年までのJAPAN/MARC全件をロードし、B現品からオンライン入力するというところにある。本番入力が開始されてからのこの5ヶ月をふりかえると、目録に関して全くの素人集団であったわれわれがなんとかやれているのも、この遡及事業の特徴に拠るところが大きいことに気がつく。


運搬風景
図書館の方々による講義を受け、また自分たちでも勉強していたとはいうものの、2月の本番入力はかなりの不安を抱えながらのスタートであったというのが本当のところである。しかしJAPAN/MARCにヒットする部分から始めることによって、書名のとり方や注記事項等目録に対する具体的なイメージを持ち得た。このことはその後のオリジナル入力に大きく役立っている。現品とJAPAN/MARCを比較できる効果も見逃せない。

WINEの優れた点は数多くあるが、われわれにとって非常にありがたいことは、その分類・件名を付与するときに、その分類・件名が既に付けられている書誌を確認できることである。分類・件名は最も苦手とするところであり、常に悩まされているが、このことにより突拍子もないものを付けることは避けられている。分類・件名の理解の大いなる助けにもなっており、少しずつではあるが全体として統一した方向に向かいつつあるといえる。


現品からの入力ということは、入力者の立場からいえば常に目録とりの判断を要求されるわけで、厳しい反面よい刺激となっている。実際に入力基準にあてはまらない図書も多く、泣きたくなるようなことがある一方で、それが仕事の楽しさにもなっているようである。毎日毎日が勉強になり、入力者のレベルアップに確実につながっていくと思われる。毎日運搬が必要という負荷の側面もあるが。

このように遡及事業の特長を栄養にわれわれは少しずつ成長している。そしてわれわれの母親たるのが4名の早大専従者の方々であり、その支えがなければ上記のようなこともありえなかったはずである。

われわれが1件1件目録を作成し、それを蓄積することによりWINEが成長していく、と同時に我々も成長していかなければならない。また、成長させてくれるだけのものをWINEが、遡及事業がもっている。まだはいはいを始めたばかりというところで、はなはだ心もとないのですが、どうか今後を温かく見守ってくださるようお願い申しあげます。立派に成長させ、してみせます。




゛本"に助けられて

井上ひろみ
(葛I伊国屋書店 入力担当)

遡及WINEでの本格的な書誌入力が始まって早くも5ヶ月が過ぎようとしています。全くの素人のしかも昨年9月からのにわか勉強で、いったいこの人達に目録がとれるのだろうかという不安を周囲に撒きちらし(?!)ながらのスタートだったと思います。実際、さまざまな形式をとる本の数々に思い悩まされる事もしばしばです。それでも挫けもせず(?!)入力に励める理由の一つに、毎日12-3号館に運び込まれる本たちのおかげがあると思っています。カードからではなく直接本を手にすることで、WINEシステムを利用する人達を強く意識でき、どんな情報が必要とされているのかを利用者の立場になって考えることができるからです。又、件名・分類を付ける必要上、本を開き内容に、目を通すという楽しみも見逃せません。それから、WINEシステムそのものの魅力も大きな理由でしょう。そしてなによりも私たちのささえとなって下さっているのが、早大図書館和書データベース化事業室の皆さんだと思います。私たちのミスやいささか性急な質問にも根気強く対応して下さいます。

今私たちが目指すのは、1日1日の積み重ねを大切にしていくことだと思っています。そしてそれをこれからの書誌作成に活かせるように頑張ろうと思います。





遡及WINEとの出会い

氏原洋子
(葛I伊国屋書店 入力担当)

昨年9月1日、正門前「敬文堂」の3階で輝かしく私達は1歩を踏み出した。当時、実際の作業をする者は女性3名、端末も引いてもらえず、図書館で現行WINEを学ぶ以外何も出来なかった。その頃はまだこの事業がオーソライズされていない。したがって入力基準についての統一もされず、ただひたすら遡及WINEについての統一もされず、ただひたすら遡及WINEにいつ出会えるのかを待っていた。徐々に人数も増え、敬文堂に狭さを感じた頃、学術情報システム課の菅原課長から件名・分類の講義をしていただくようになり、いくらか遡及に近づいてきたように思われた。しかし、まだ端末をさわっていない、そんな不安、苛立ちを持ち続けて平成元年、12-3号館にて念願の遡及WINEと会えたのである。学術情報システム課の斎藤主任をはじめとする方々のお蔭で使い勝手が良くなり、1月名実共に和書データベース化事業室が発足したのだった。本からのデータを読みとることは、本当にむずかしい。半年そこらで出来るわけがない。それが分っていて作業するからたまらない。入力基準はあるもののそれに合わないケースが多々生じる。専門知識も必要。件名・分類はむずかしい。そんな中で現在26寧名(含む男性2名)は頭を寄せ合い、バシバシ端末を叩いている。そして今、まがりなりにも1日600件のも目標に向って頑張っているのである。

この作業の蔭となり日向となり(いやいや太陽のごとしである)面倒をみていただいている、早大専従者の方々が一番大変であろうことは、想像に難くない……心から感謝しています。



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