No.19(1989.9.1)p12



本事業に着いて―館外の声 1
目録情報 ユニバースの構築

鶴見大学図書館長
丸山昭ニ郎

古めかしい言葉だが、一般万有書誌、文庫クセジュの『書誌』(L..−N.マルクレス著、藤野幸雄訳、1981刊)では一般国際書誌
<biblilographie generaux universels>を作成する試みは、グーテンベルグの印刷術発明以来のものである。16世紀のゲスナ―(Conrad Gesner)から19世紀のブリュネ(Jacques Charles Brunet)にいたる、個人ビブリオグラファーの一連の業績があるが、ブリュネの第3版で3万点、当時存在した全図書の三十分の一にもあたらないとされている。

ベルギーのオトレ(Paul Otlet)とラフォンテーヌ(Henri La Fontaine)が全世界の学術文献目録を作成するため、国際文献協会(Institut International de Bibliographie)を設置したのは、1895年のことだったが、雄図むなしく挫折してしまっている。

アメリカでは、1853年の総合目録を指向した最初の目録規則を発表したジューエット(C.C.Jewett)以来、1901年のLCにおける印刷カードの頒布開始、1930年代の全国的なカード体総合目録事業、1966年からのNPAC(収書整理全国計画)、1971年のOCLCによるオンライン総合目録事業開始と、一般万有書誌構築のための組織的な取りくみが行われている。

最近のヨーロッパでは、ECの図書館版ネットワークの一環としての、ヨーロッパ目録情報ユニバース(espace catalographique europeen)の構築を、BNB(英国全国書誌)をコーナー・ストンに据えて行うことが提言されている。

日本ではまず、全国的な目録情報ユニバースの構築から開始しなくてはならないが、まだその緒についたばかりである。最終的には、いくつかのオンライン総合目録が連携したかたちになることが予想される。アメリカのOCLCでは、かつて収録しているMARレコードの品質が問題とされたことがあるが、現在ではOCLCもRLINレコードも品質に大差ないことが報告されるようになってきている。コピー・カタロギングを行う図書館では、信頼できるMARCレコードを作成し、これを共有の場に提供している優秀図書館をリスト・アップしたホワイトリスト(ブラックリストの反対)を用意しているとのことである。

今後の目録情報ユニバースでは、それぞれの図書館の協力のもとで、収録範囲を拡大することと、品質のよい、MARCレコードを確保することに、その成功の可能性が左右されることになると思う。

早稲田大学図書館で行なわれている和書データベース化事業は、特にデータ入力の時点で現物の図書にチェックする工程がくみこまれているとのことでもあり、今後の日本における目録情報ユニバース構築への多大な貢献が期待できる事業であると確信している。


本事業について―館外の声 2
和書遡及変換事業に寄せて
OCLC CJK User Services Specialist Asian/Pacific Services

小鷹久子

1986年夏、極東では最初の開催と言われた東京IFLAが日本の図書館界・情報専門家の関心を大いに集めたが、それと前後して図書館の機械化に取り組む大学が増えていたことは、当時、OCLCを参考に視察に見えた図書館人から得た所感であった。大学図書館に限って言うならば、国立系と私立系とでは別途の方法を計画していることも明らかであった。日本のコンピューター・メーカーが企業から図書館に関心を払う段階に入り、そのプレッシャーと援助の中で、殊に私学図書館では独自に機械化の構想を立て開発を進めてきたようである。それは21世紀の図書館と書誌がMARCを前提にして運営され管理されるという汎世界的情報社会への同調でありチャレンジであると思う。

聞くところ、今日、日本の大学図書館では凡そ五分五分の割合で和書と洋書を所有し、購入しているそうであるが、膨大な書誌MARC化する為にOCLCの総合書誌目録に目が向けられてきた。紀伊国屋書店との事業契約を通じてそれは日本の図書館界にも馴染みになり利用され始めた。しかし、その中の東洋文献資料に関しては、中・日・韓国語の表現に使われる文字の複雑さを克服して書誌目録をMARC化できるようになったのはごく最近のことで、共同目録作成による省力・経済化、又、それに伴って当然行われるであろう相互貸借に利用されるには、はるかに立ち後れている現状である。従って、所謂CJK図書館グループの一層の努力、LC・MARCの受け入れに止まらない他のデータベースとの協力、特別遡及変換プロジェクトの実行など今後の課題を抱えている。大がかりな目録作成並びに遡及変換は出版国である各言語使用国に於て行われそのレコードの国際間流通が望ましいと考えられ目下米国議会図書館が手掛けているJAPAN/MARC
のLC・MARCへの変換はその最初の試みと言えよう。

こうした動きの中で、去る三月、私はいくつかの日本の大学図書館を訪問する機会に恵まれた。殊に早稲田大学図書館奥島教授から新図書館機械化の構想を伺い、大規模な和書遡及入力の実際を見聞できたことは誠に幸いであった。その多大且つ貴重な和書資料を前にして、十分検討された方針と規則に従い、原本を手にして遡及目録作成を進めてゆく努力には出来上がるものの高品質を裏付けるものとして心から敬意を寄せる次第である。コンピューターの適用により情報を貯えるメディアもまたそれを伝達する方法も激変し、仕事の仕方が大きく変ってきたが、゛本"に対する我々の愛着は失せないと思う。図書館の本質的役割も引き継がれるであろう。早稲田大学がその歴史を通じて日本の意識をリードしてきたことはよく知られているが、この事業を通じても日本の図書館界を新時代に向ってリードする抱負が強くうかがえる。出来上がるMARCが将来早稲田大学図書館内に止まらず多くの日本の、そして世界の利用者にも提供出来るよう計画されていると聞いた。それというのも、その時にこそ早稲田大学図書館の蔵書の真の価値と意義とが生まれることを当代館長はじめ新図書館構築に当たる全員が認識し支持しておられるからに他ならない。紀伊国屋書店との共同作業で事業が進められている時、両者の国際図書館界に対する役割と貢献が一段と深まることは明らかであり喜ばしい。

゛良い目録は永遠に残る"と、又、゛目録作成は科学であると同時に芸術である"とも教えられた。全く同感する。我々の生き様がその時代その時代にどうであれ、その証人としての゛本"の記録を正確にまた美しく残して置くのは図書館人に共通の願いであり、使命ではなかろうか。早稲田大学図書館の画期的事業の完成を大いなる期待をもって待つものの一人である。


本事業について―館外の声 3
相互協力からみたこの大事業

慶応義塾大学研究・教育情報センター
本部事務室長
澁川雅俊

新中央図書館、WINEシステム、明治期刊行物マイクロ化事業と、このところ早稲田大学の意欲的な計画におどろかされている、と同時にその決断と実行力に敬意の念を禁じえない。52万冊の和図書の自力遡及入力もまた大胆で、野心的な計画である。これが明後年発足の総合学術情報センターの大前提となる計画であると理解しているが、さらに、広くわが国学術情報サービスの発展に寄与する可能性をもっているものと評価している。

学術情報資源の共有が避けられない今日の図書館サービスでは、統合化された資料所在情報、つまり目録情報データベースの構築とその効果的な運用が、不可欠である。いま、だれもがそう考え、その必要性を叫んでいる。しかし、自分が、自分の図書館がそれを実行するとはだれもいいださない。それはだれか人に任せて、うまくそれを利用しようと考えるのが常である。私自身もその一人であるが、そういう状況はいまも昔も変らない。百年以上前にこんなことをいった英国の図書館員がいた。

「これは私自身が図書館員であったときの経験からの実感である。私は常日頃から、新刊書の目録を取ることぐらい馬鹿げたほどの労力の無駄はないと思っていた。私が目録規則にしたがって目録スリップを書いているのとちょうど同じときに、何百人もの人が私とまったく同じ作業をしている。しかもそうしたことは、英国内だけではなく、およそ世界の文明国ならどこでもみられる光景である。

こうした無駄をなくすために考えられることのひとつは、私がとった目録スリップを印刷して、それを安い書籍郵便のレートでヨーロッパのすべての図書館に送ることである。しかし、これよりもっともっともよい方法は(原文ママ)…各国の中央図書館が責任を持ってその国の出版物の目録を一枚一枚のスリップに印刷し、それをただ同然の安い料金で、規模の大小にかかわらずヨーロッパ中のあらゆる図書館に頒布することである。こうした相談が各国政府の間でできないものだろうか。」


もちろん仕掛けは違うが、こうした素朴な考えがUTLAS、OCLC、学術情報センターなどにつながっている。早稲田大学のそれは、ビジネスでもなく、行政でもなく、図書館プロパーのニーズから生まれたものである。

とにかくあなた任せの資料情報データベース構築の環境は一応整った。しかし、今度は、既製品システムが何となく窮屈になってくる。贅沢をいわないつもりでも、太っていたり、痩せていたり、足が短かったり、やはりいろいろと個々の事情が気になりはじめる。コンピュータを中核に据えているいまの仕掛けは、本来は、既製品から特注品を作り出すのに容易なはずであるが、既製品のシステムが固かったり、その運用に柔軟性を欠くと、簡単に自身の身柄にあったものができない。いまの統合システムには、多少そういうところがあるように思える。聞くところによれば、WINEシステムをベースにした早稲田大学の資料情報データベースにはそれがないという。だとすると完全統合型とは違った、また別の相互協力ネットワークデータベースの構築が可能になる。



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