No.19(1989.9.1)p 2


和書データベース化事業の出発にあたって

奥島秀康(図書館長)



早稲田大学では、1991年4月にオープンを予定している新中央図書館の研究と教育の支援機能を充実するために、「WINE」と称するオンライン総合図書館システムの開発に努めてきた。しかし、図書館の生命はその所蔵する資料にあり、WINE・システムが十全に機能するためには、この学術情報システムのデータベースの構築が不可欠である。そこで、百周年記念事業計画審議会の答申にもとづいて設置された実施計画委員会は、その「新中央図書館計画基本構想書」(「早稲田大学広報」号外1465号)において、遡及入力によるデータベース化により「早稲田大学書誌マスター」を完成させるという基本方針を決定した。

この基本方針を受けて、図書館では、濱田泰三前館長のもとで「学術情報システム基本構想書」(「早稲田大学広報」号外1465号)を作成し、「学内の全ての学術情報の二次データベースを構築し、『早稲田大学総合目録』を完成させる」という目標を確定したのである。そして、まず洋書30万冊の遡及入力に着手し、1985年7月にはこの入力作業を外部(紀伊国屋書店)へ発注した。当初この作業は難航を重ねたが、OCLC の MARC の使用を始めてから、ようやくその完成の見通しが立ち、現在鋭意その作業が進められている。

問題は、既存の MARC の存在しない和書の遡及入力である。私は、館長就任時から、この問題をどう処理するか考えてきた。和書の遡及入力作業は、これを早大独自で取り組むと、館蔵資料のうちで50数万冊の入力作業だけでも、ベテラン館員20数名を投入して最低10年の歳月を要し、外部発注しても、膨大な費用がかかるだけではなく、質の高いデータベースの構築は困難であるというのが、大方の観測であった。

ところが、昨年春、地球を一周して欧米の主要図書館を視察する機会があった。このとき、私は遡及入力については各国とも共通の悩みを抱えていることを知ると同時に、オハイオ州のコロンバスに本拠を置くOCLCでは、2000万件に近いデータを蓄積しており、全世界の1万館に近い図書館がそれを利用して入力作業を行っている現実を目のあたりにすることができた。それが大きなヒントになって、私は、断固この事業を遂行しようと決意するに至ったのである。

たしかに、和書の遡及入力は前人未到のナショナル・プロジェクトにも比すべき大事業である。しかし、誰かが始めなければならない事業である。単独では無理でも、良きパートナーが得られれば決して不可能ではない。そこで、早速いくつかの他大学図書館に打診してみたが、はかばかしくないので、データの将来の販路をも考慮して複数の業者に呼びかけ、提案書の提出を求めた。その結果、紀伊国屋書店という最良のパートナーを得ることができ、大学当局の理解ある決断によって、「和書データベース化事業」をジョイント・ベンチャー方式でスタートさせることになり、昨年12月、事業室を設置することができたのである。

本事業を開始するに際して、われわれが掲げたスローガンは、「質の高いデータバンクを!」であった。そのため、図書館では、ベテラン館員4名を投入するとともに、目録カードからの入力という安易な途を捨て、あえて「現物からの直接入力」という方式を採用した。いつの日か、本館のオリジナル・データが世界の図書館で利用されることを夢見ての布石である。

現在、本学では、分館たる各キャンパス図書館の整備が急ピッチで進もうとしている。したがって、現在進行中の本館分入力の52万冊が完了しても、和装本等20万冊余りの入力作業が残っており、これに加えて、分館分の数10万冊の入力作業が待っている。前途の困難は予測する以上のものがあろう。しかし、「賽は投げられた」のである。どのような困難が待ちうけていようとも、紀伊国屋書店とのチームワークでこれを克服していかなければならない。近い将来、和書100万冊のオリジナル・データベース構築を目指して、全力を投入していきたいと考えている。



図書館ホームページへ

Copyright (C) Waseda University Library, 1996. All Rights Reserved.
Archived Web, 2002