No.15(1988.11.5) p.18-19
新収資料紹介 14
≪楽劇「ニーベルングの指環」四部作全曲≫
(R.ワーグナー、作曲:K.ベーム、指揮:バイロイト祝祭管弦楽団・合唱団)
<請求記号CD37 45〜58>
図書館視聴覚室
ワーグナーの<指環>
オペラの中でも「楽劇」という新しい世界をかたちづけた、リヒャルト・ワーグナー(1813〜1883)は、彼のライフ・ワークともいうべき≪二一ベルングの指環(Der Ring des Niebelungen)≫を、1848年に着手する。
以前ワーグナーは、ヤーコプ・グリムの編纂した「ドイツ神話」という一巻の中で、「エッダ」と「二一ベルンゲンの歌」をまず知った。「ドイツ文法」の著者であり、やがて弟のヴィルヘルムと「ドイツ語辞典」を編集したこのグリムの「ドイツ神話」からヒントを得たワーグナーは、ゲルマン叙事詩のみならず、北欧神話、あるいはギリシャ悲劇、そしてインド哲学までに、その素材を求め<指環>の台本を自ら創作した。
通常「四部作」と呼ばれるこの<指環>は「ラインの黄金(Des Reingold)」、「ワァルキューレ(Die Walkure)」、「ジークフリート(Siegfried)」、「神々の黄昏(Gotterdammerung)」という四つの楽劇からなる。台本着手からこの全四部作の作曲完成までに長い苦闘と度重なる中断を経なければならなかった。そして、全体の上演に四日間・約17時間余りを要する文字通り音楽史上に類をみない規模と内容をもった総合芸術作品≪二一ベルングの指環≫は、1874年11月21日に完成する。台本着手から完成まで実に、26年もの年月を要した。
初演のために集まった、全ドイツ、オーストリアのスタッフは、3年間稽古を積んだ。そして四夜連続の初演は、1876年8月13日〜17日の四夜にわたり、この作品を上演するためにワーグナーが、ルートヴィヒ二世の援助で建てたドイツ・バイエルンのバイロイト祝祭劇場のこけら落しとして行われた。(ただし、ワーグナーの意に反して「ラインの黄金」と「ワルキューレ」は、すでにミュンヘンで上演されていた。)
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<指環>全曲録音盤の出現
このく指環>全四部作のあらすじについてはあらためて述べるまでもないが、ワーグナーは神話的伝説を素材としながらも、金や支配欲を得ようとする権力が、世を没落させるという思想をここに表現しようとしたのである。初演より百年以上を経た現在、なお、この作品にはさまざまの解釈と劇的演出が可能である。
一方、この<指環>の音楽鑑賞面からいうと、その全曲録音盤は、長らく世に出なかった。作品が余りに膨大なために、LPレコードにすると20枚近くになってしまう。今でこそ、<指環>全曲盤は数種類発売されているが、一般には英国デッカ社による「ゲオルグ・ショルティ盤」が最初であった。この盤は、スタジオ録音で1958年10月<ラインの黄金>の録音取りから始まり、8年という長期間を要して、1966年に全曲録音が完成した。この「ショルティ盤」が反響を呼んだために、レコード会社もまたバイロイト音楽祭のライブ(実況)録音などからレコードを制作するようになった。新収のフィリップス社の「カール・べ一ム盤」もそうした実況録音盤の一つである。
この「べ一ム盤」は、1966年と1967年のバイロイト祝祭劇場での実況録音の中から編集されたもので、CD(コンパクト・ディスク)で14枚と文字通りコンパクトになっている。ワーグナーの<指環>がCD化されたことで、レコードの歴史はいよいよ本格的にLPからCD時代になったといわれた。CDからデジタル再生された20年前のバイロイト視祭劇場の実況はまさに感動的である。
このバイロイト音楽祭の出演者は次のとおりである。
演出・装置=ヴィーラント・ワーグナー(R.ワーグナーの孫:戦後バイロイト音楽祭の黄金時代をカール・ベームと共に築いたが、1966年には病床にあったため、弟子ペーター・レーマンが演技指導を行った。1966年の音楽祭の後、49才で病死した。しかし、彼の演出した<指環>はその後3年間バイロイト祝祭劇場で続けられた。)
指揮=カール・べ一ム
ヴォータン=テオ・アダム、バス
ブリュンヒルデ=ビルギット・ニルソン、ソプラノ
ロ一デ&ジークフリート=W・ウィントガッセン、テノール
ジークムント=ジュームズ・キング、テノール
ジークリンデ=レオニー・リザネック、ソプラノ
このレコードについて、音楽評論家・志鳥栄八郎氏は次のような批評を述べている。
「カール・べ一ムの作りだすワーグナー音楽は、寸分の隙もなく、ガッシリと構成され、一貫して強い緊張感に包まれている。べ一ムのこの作品への共感がひしひしと伝わってくる感動的な演奏である。歌手たちも、戦後のワーグナー歌唱の粋が集まっているといっても過言ではない。(中略)これは戦後バイロイトの一つの頂点を築く歴史的演奏の名に値する名演奏であると向時に、現時点におげるワーグナー演奏の最高の記録である」と。
この新収の「べ一ム盤」の他に、当視聴覚室では、以下五組の<指環>全曲盤を所蔵しているので、あわせてここに紹介する。
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<実況録音盤>
フルトヴェングラー盤(於・1950年ミラノ・スカラ座)
クラウス盤(於・1953年バイロイト祝祭劇場)
ブーレーズ盤(於・1976年 同 上 )
<スタジオ録音盤>
ショルティ盤(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、他)
カラヤン盤(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、他)
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