ふみくら:早稲田大学図書館報No.45(1994.1.31) p.12-13

「ふみくら10号」の表紙写真の"男子像"は上條俊介作、『船を曳く人』と判明


 先号で「作者についてご存知のことお知らせ下さい」とお願いしておきましたところ、まもなく商学部の原輝史教授よりご連絡をいただきました。作者は、先生の郷里松本の彫刻家で父上の知人であった方ではないかとのことで、母上を通じて確認していただいた結果、大正8年に専門部政経学科入学、彫刻家北村西望に師事した上條俊介氏の作品"舟を曳く人"と判明しました。氏は既に、昭和55年に亡くなられていますが、ご子息の耿之介氏に作者について書いていただきましたので、今号でご紹介します。なお、図書館史編集委員会で、昭和9年の(図書館)「日誌」の中に寄贈の記録があるのをみつけました。それによると、5月28日に寄贈されています。残念ながらその経緯については記されていません。
 また、昭和57年4月に松本の郷土出版社より刊行された「松本の美術<十三人集>」〔函架番号チ1・5906〕に作品、略歴が掲載されている旨ご子息よりご教示いたださました。
上條 耿之介  早稲田大学図書館所蔵になる『舟を曳く人』像作者、亡父上條俊介について御照会をいただいたので、父の筐底に秘されていた記録により一彫刻家の軌跡を辿ってみたい。
 明治33年松本市郊外朝日村に生まれた父は、松本中学校生の大正6年、1冊の日誌を残している。披くと、「老荘」「自然に帰る道を求む」[小学」「菜根譚」等、東洋的世界への痛い程の心酔が汲みとれる。「雪の朝。この無為にして而して大なる『声』・力・霊のあるを。吾人は此の自然より出でしなり。而して自然に帰へるなり。否吾人は現在自然と同体」しかし「我が自然主義は俗界の自然主義と大いに異なるなり。世のこの主義は唾して棄つべき也」と記す。更に私淑する吉田松陰・渡辺峯山・西郷南州への讃仰の詞章と共に、国家・社会への忌憚のない奔放な発言が紙上を駆けめぐる。日く。「飛行機」「ロイドジョージ」「撫子炭鉱爆発」「鳴呼寺内の非立憲」「原政友会はだめなり」「キューバ革命」……と。そして怒りをもってこう綴る。


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Archived Web,Feburary 2, 2000