ふみくら:早稲田大学図書館報No.11(1987.6.10) p.18

早稲田大学芸術功労者賞記念

『丹羽文雄展』報告

同展示会実行委員会

 去る2月20日、昭和61年度の芸術功労者賞に作家丹羽文雄氏が決定した。これを記念して、図書館では展覧会を開催することとなり、2月24日、開催責任者の事務長を含め9名で実行委員会が組織され、急遽準備が進められた。
 展覧会は、授賞式当日である3月25日と、4月l日から4日までの計5日間、演劇博物館1階の第1、第2陳列室を会場として開催された。25日の第l回卒業式(午前の部)で芸術功労者の顕彰が行われた。午後より丹羽夫妻は、令嬢ほか門下の作家河野多恵子、鈴木俊平氏等と共に来場、奥島館長、紅野教育学部教授の案内で多数の卒業生や父兄に囲まれながら、数多くの作品や写真を観て廻られた。特に、中学時代の恩師、近藤杢先生の軸の前では懐しそうにその思い出を語られたが、図書館では今回の展覧会のために軸の由来を書いていただき展示後、ご寄贈いただいている。  会期中に卒業式と入学式がおこなわれたため、多くの父兄の参観も得、好評裡に2,085名の入場者を得て無事終了した。
 この展示にあたり丹羽文雄氏を始め、四日市市立図書館、丹羽氏秘書清水邦行氏、久保田芳太郎氏、大河内昭爾氏、三田文学ライブラリー、武蔵野女子大学図書館、学内では、紅野敏郎教授、暉峻康隆名誉教授、演劇博物館から有益なご教示、ご指導を賜り、かつ貴重な資料の多くを借用できたことをここに報告するとともに、深く感謝の意を表わす次第である。  なお、今回、出陳品の多くを丹羽氏より借用したが、展覧会終了後図書館よりの寄贈依頼に快く応じていただき、現在、手続き進行中である。
出陳品は「丹羽文雄展目録」を参照いただくとして、展示会場の概要を次に記しておく。
 演劇博物館左入口から入ってすぐの1階第1陳列室が丹羽氏だけの展示。第2陳列室を同時代の稲門作家と、丹羽門下の人々の展示室とした。正面廊下壁面に、丹羽氏略年諸、肖像写真、芸術功労者顕彰状(文面)等を展示した。
 第l陳列室の展示品の主なものは次のとおりである。当初から丹羽文学の題材であった生母こうとの写真。中学の恩師で漢文学者近藤杢先生の1軸、その由来を記した丹羽氏原稿。処女出版「鮎」の初版・普及版・豪華本。新家庭綾子婦人と乳母車中の令嬢、令息の写真。ソロモン海戦に報道班員として従軍した時の、砲弾炸裂で死亡した同僚乗組員の脳漿の飛び散ったノート。九死に一生を得て迎えた戦後、旺盛にかきあげた風俗小説の数々。映画化された昭和30年代の問題作の映画スチール。丹羽ゴルフ学枚長として、アメリカのプロゴルファー、ローラ・ボーと握手の写真もある。81歳で文壇初のエイジシュートを達成。日本文芸家協会・文芸家著作権保護同盟会長、各種文学賞審査委員を兼ねながらライフワーク「親鸞」「蓮如」を完成したのは、こうした健康保持のたまものと頷かれる。最初の中央公論文芸賞作品「海戦」。野間文芸賞受賞、戦後の新典宗教の内募を抉った「蛇と鳩」。到達の境地を物語る色紙「春来草自生」。篠山紀信撮影の原稿執筆13万枚といわれる氏の両手とペンダコの写真。発表処女作「秋」掲載の、尾崎一雄、火野葦平らの同人雑誌「街」ほか小説修業時代の諸同人誌を展示。
 第2陳列室は広津和郎、尾崎一雄、尾崎士郎、石川達三、火野葦平、浅見淵ら親交のあった稲門作家と一緒に撮影の写真パネル。24年間私費を投じて続刊した同人誌「文学者」の全256冊。そこから輩出の作家、評論家の諸作品。
 最後に綾子夫人の「夫婦の年季」「丹羽家のおもてなし料理」を添えた。昭和24年丹羽家の正月に集う新進作家達、「文学者」関係の会合や文化勲章受賞祝賀会などの写真パネルを飾って、後進育成に力を尽された丹羽氏の功績の一面を展示した。



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First drafted Feburary. 09, 2000