ふみくら:早稲田大学図書館報No.10(1987.2.10) p.16

新収資料紹介9

"デルゲ版チベッ卜大蔵経"


 チベット大蔵経の学術的重要性が注目されて久しいが、チベット語という特殊性もあって、当館ではこれまで、"影印北京版"を所蔵するのみであった。幸い今回上記"デルゲ版"の購入が実現し、僅かながらも資料の充実を図り得たことは大きな喜びである。
 一般には馴染みの薄いものではあるが、チベット大蔵経とは、梵語仏典のチベット語訳及び豪古・ギルギット・中国語訳からの重訳を含む仏典の集大成であり、その一貫性を保持する逐語訳は、インド仏教の原典解明にとって不可欠な資料とされている。チベット大蔵経は"仏説"としての<K>カンギュル(経・律)と"仏説の註釈"としての<T>テンギュル(論・律の註釈)とに大別され、更に各々教説の内容によって細分されるが、<T>の分類には、印度古来の分類法たる五明の影響が見られ、"アマラコーシャ等を初めとする、仏教以外の様々な学問技芸の基本文献をも包括しており、一種の百科全書とも言える。
 チベットヘの仏教伝来は、7世紀初め唐の文成公主降嫁の時に始まると言われるが、チベットに大蔵経が現われるのは、14世紀初めの写本による"古ナルタン大蔵経"の成立以後のことである。1410年の"永楽版"以後版本によるチベット大蔵経が作られるようになり、17世紀末から18世紀にかけて、所謂四大大蔵経(北京版、新ナルタン版、デルゲ版、チョネ版)の成立を見る。本書の底本である"デルゲ版"は、デルゲ王bsTan pa tshe rin(1678〜?)の開版になり、<K>は1729〜33年、<T>は1737〜44年に成立し、七行にわたって刻られた版本にして、実に65,000枚の量にも及ぶ。この版の<K>の方は、"古ナルタン大蔵経"を基にして"ツェルパカンギュル"が作られ、更にこれを基にして作られた"リタン版(ジャン版)"が基礎となって作られて居り、一方、<T>の方は、"古ナルタン大蔵経"を基にBu stonが整理増補してシャル寺に安置したテンギュルを基礎としていると言われている。


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Archived Web,December 13, 1999